仮想通貨・取引所から大量のビットコインが消失し、業務上横領などの罪に問われたMTGOX・元代表マルク・カルプレス被告の判決が2019年3月15日、東京地裁で行われ、同氏に入金データ偽装に対する私電磁的記録不正作出・同供用罪で懲役2年6月、執行猶予4年(求刑は懲役10年)が言い渡された。顧客資金を着服したとする業務上横領罪などは無罪とした。
仮想通貨取引所の資産消失とサイバー攻撃などによる盗難は、国内外で後を絶たない。国連安全保障理事会が11日に北朝鮮による仮想通貨取引所へのサイバー攻撃を示唆する報告書をまとめた3日後には、モナコインを預かるサービスにサイバー攻撃を仕掛けた18歳少年が検挙された。
一方、カナダの取引所クアドリガCX (Quadriga CX)は、創業者の突然の死が、巨額の資産が消失する事態に陥った。取引所のガバナンス(統治)とセキュリティー(安全性)における特効薬はあるのか?森・濱田松本法律事務所の増島雅和弁護士に話を聞いた。
資金決済法改正で流出対策
増島氏は、3月15日に閣議決定された資金決済法の改正案の内容を高く評価し、日本は法律面において世界をリードする存在であり、他国が日本に追随する可能性を強調した。
同改正案では、取引所(仮想通貨交換業者)に対して、ホットウォレット(オンライン)で顧客の資産を管理する際、同種・同等の仮想通貨の保有を義務づけている。仮想通貨から「暗号資産」への呼称変更も盛り込んだ法案には、国会での成立後、1年以内に施行すると記された。
「ハッキングを受けるのは、オンライン上に置かれたホットウォレット内の仮想通貨なので、同種・同量の資産保持義務を課すことで、間接的に、より安全なコールドウォレット(オフライン)で管理する仮想通貨の量を増やす方向に事業者を動機付ける効果がある」と増島氏。
分散型のセキュリティー基準
一方、セキュリティ面における大きな課題は何か?増島氏は、分散型システム(decentralized system)においてセキュリティースタンダードの必要性をあげる。
「中央集権型システムについては、たとえば金融であればFISC(金融情報システムセンター)の安全対策基準など、確立されたセキュリティーの規格が存在しており、各金融機関はこれをもとに自社グループのセキュリティー体制を構築している」(増島弁護士)
また、増島氏は、仮想通貨が以前まで、テクノロジー領域のものとして受け止められていた事実の副作用を指摘。
「それゆえに、顧客の資産保護という金融ビジネスであれば最も重要と考えられている価値観を、金融の文脈でスタンダードな方法によって実装することができていなかった」
テックから金融のガバナンスに移行
コインチェックの巨額資産流出後、金融庁は仮想通貨交換業者に立入検査し、業界全体のチェック作業を行ってきた。
増島氏は「業界全体は現在までに、テクノロジー系を中心とした経営陣からなるファーストジェネレーションの体制から、金融機関出身者を中心とした経営陣からなるセカンドジェネレーションへのガバナンス体制に移行してきている」とした上で、「その結果、金融という文脈から見た場合の管理体制という意味で、以前よりもしっかりしてきた」と話す。
増島氏は、日本は一般利用者による仮想通貨の受容が他国に比べて広がったため、制度面において他国をリードしているのは間違いないと結論づける。
「仮想通貨についてはマネーロンダリング(資金洗浄)規制が世界的に導入されつつあり、次には利用者保護のためのルール、市場の公正性確保のためのルールが必要になってくるはずだ。その意味で今後、他国が日本と同様の方向に進んでくると思っている」と加えた。
改正案では、企業などが「トークン」を発行する資金調達方法ICOに関しても、規制を明確にしている。トークンは金融商品取引法の適用を受けることを明記。情報開示義務やトークンを販売する仲介者への勧誘規制も盛り込まれた。
取材・文:佐藤茂
編集:浦上早苗
写真:shutterstock
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