ブロックチェーン分析企業サイファートレース(CipherTrace)は、不正アクセスや窃盗、詐欺などの犯罪による暗号資産(仮想通貨)の被害額が、1月〜5月までの間で13億6000万ドル(約1478億円)に達したと発表した。
サイファートレースは6月2日、暗号資産の利用した資金洗浄などの犯罪動向をまとめた報告書を公開し、同社が調査した被害額を明らかにした。年間ベースの被害額では、2019年の45億ドルが過去最高で、2020年は前年に次いで2番目に高い額になる可能性があると、サイファートレースは推測する。2018年の被害額は17億ドルだった。
ウォートークン事件
2020年のこれまでの被害総額で、その大部分を占めるのが中国の詐欺事件による被害で、「ウォートークン(WoToken)事件」として知られる。
中国の巨大なマルチレベルマーケティング(MLM)詐欺、いわゆる「ネズミ講」は、2018年から2019年にかけて10億9000万ドルの被害をもたらした。この被害は5月に判明したばかりだ。
サイファートレースは、ウォートークンの資金──4万6000ビットコイン、204万イーサリアム、29万2000ライトコイン、5万6000ビットコインキャッシュ、そして68万4000イオス──は、依然移動を続けているという。
「古典的なマルチ商法だった」と話すのは、サイファートレースのチーフフィナンシャルアナリスト、ジョン・ジェフリーズ(John Jeffries)氏。
「魔法のアルゴリズム」があるとして、ウォートークンは71万5000人以上の参加者を集め、「自らの重みに耐えかねて崩壊した」とジェフリーズ氏は言う。首謀者たちは現在、中国で裁判にかけられている。
拡大する詐欺犯罪
暗号資産に関連する犯罪では、詐欺事件の増加が増えているという。詐欺による被害額は、ハッキングや盗難の被害額(サイファートレースの推計によると、2020年の被害予測のわずか2%にも満たない)を大幅に上回っている。2019年も、詐欺による被害額はハッキングよりも大きく上回った。
多くの取引所がセキュリティシステムを強化するにつれ、それを突破する不正アクセスの数は減る。しかし、詐欺は、暗号資産企業をより厳しく規制する必要性を浮き彫りにしていると、ジェフリーズ氏は述べる。
「仮にウォートークンがその仕組みを公開することを求められていたなら」、はるかに早く失敗していただろう。「テロリストへの資金供与やマネーロンダリングを防ぐだけではない。情報を持たない消費者を守るためでもある」
成熟する犯罪者たち
犯罪者は痕跡を消す方法を進化させている。サイファートレースは、ダークネットのウォレットから取引所への暗号資産の流れを1週間監視した際、30%以上は経由地点をはさみ、直接送金されたのは10%に満たないことを突き止めた。
このように経由地点をはさむことは、追跡可能ではあるが、暗号資産の出所を隠蔽できる可能性があり、取引所が不用意に犯罪者の資金をロンダリグ(洗浄)するリスクを高めると、サイファートレースは説明する。2019年、取引所に送られた違法な暗号資産のうち、直接送金されたものはわずか0.17%だった。
アメリカにあるビットコインATMから「ハイリスク」な取引所への送金は、急激に増加しているという。2019年、8%が疑わしい取引所に送られ、「通常の」取引所に送られたのはわずか5%だった。
ただし、ビットコインATMから「ハイリスク」な取引所への送金がすべて犯罪行為を示すわけではない。
トラベル・ルール
暗号資産は国際的産業であり、取引所も世界中に広がっている。2019年、取引所間のビットコイン送金の74%は国境を超えるものだった。
これは、マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF: Financial Action Task Force)が設定したデッドラインに関係する問題になり得る。暗号資産企業は2020年6月から、取引所のユーザー情報の収集・共有を開始しなければならない。
FATFのいわゆる「トラベル・ルール」を遵守するため、取引所はそれに必要な技術を導入する準備は整えてきた。しかし、ジェフリーズ氏は当局側の準備が整っていないのではないかと指摘する。
業界のプレイヤーや彼らが本拠地を置く国がトラベル・ルールを早急に整備しなければ、ビットコイン送金が「サイロ化した環境」、つまり国内でしか行えなくなる可能性もあると、ジェフリーズ氏は話す。
「国際送金の手段という暗号資産の価値を維持できることが重要だろう」
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:Crypto Criminals Have Already Stolen $1.4B in 2020, Says CipherTrace