中国では4月末に開かれた政府機関主導の「BSN起動大会」から5月末、全人代閉幕までのこの1ヵ月間で、ブロックチェーン関連のさまざまニュースが伝えられた。中国は、シェアエコノミーや無人運転など、新技術の“社会実装”が速い。ブロックチェーン技術もその例にもれず、各地方政府が、まるで企業間競争のように導入を進めている。
BSNとは──独自環境の構築により10分の1以下のコストで済む
4月25に北京で開催された「BSN起動大会」は、ブロックチェーンプラットフォームBSN(Block-chain-based Service Network)を世界に向けて公表するイベントだ。主催は中国国家電子政務外網管理中心で、中国移動、銀聯カード、ブロックチェーンサービス発展連盟などとともに開いた。2019年に開発の始まったBSNはブロックチェーンのインターネット(the internet of blockchains)と呼ばれている。現在、国内128、海外8のノードがあり、国内電信3大キャリア(中国移動、中国電信、中国聯通)やIT大手・百度クラウドの他に、グーグルとマイクロソフトのクラウドも接続している。
BSNを使うことのメリットは、簡単にブロックチェーンベースのアプリケーション開発ができる点だ。企業や公的機関などが、独自のブロックチェーン環境を構築しようとする場合、年間のコストは10万元(152万円)以上かかるとされる。それがBSNを利用すれば、2000~3000元(3~4.5万円)ほどで済む。
大会ではBSNの目標として、以下の3点を挙げた。
1 国家の新型肺炎防疫体制に貢献。
2 経済の高度化、デジタル経済モデルの創新を主導。
3 ブロックチェーンサービス網の普及により、新たな発展へ導く。
ブロックチェーンを新型コロナウイルスの感染拡大防止や、今後の発展につなげようという意気込みが感じられる。
地方政府のブロックチェーン導入
盛会に終わった大会の後、複数の省・市がブロックチェーン発展に向けた行動計画を出したり、政府活動報告の中で、ブロックチェーンに言及したりしている。
例えば、海南省、甘粛省、湖南省、貴州省、広州市などはブロックチェーン発展行動計画を発表した。北京市、上海市、重慶市、広東省など、20以上の省市は、政府活動報告の中で、ブロックチェーンに言及している。
湖南省 3カ年のブロックチェーン行動計画を策定、売上は450億円を見込む
2020年から22年までのブロックチェーン産業発展3カ年計画を策定したのは、華中の平原地帯にある湖南省だ。香港の北の広東省の北といえば、位置がイメージできるだろうか。人口6918万人、1人当たりGDPは中国中位で、毛沢東、朱鎔基など共産党指導者の出身地として有名だ。
湖南省が策定した行動計画では、2022年までに、ブロックチェーン技術を全国最先端の水準に引き上げると宣言している。10以上の公共プラットフォームを建設し、3万社の企業を誘致する。それに伴い5ヶ所前後の「ブロックチェーン産業園」なるものをを建設するという。
省政府は、大学などの高等教育機関、研究所などの人材育成をサポート、重点産業には訓練センターも設置。ブロックチェーン関連産業の売上げは30億元(453億円)を想定している。
甘粛省 5Gで1070億円、ブロックチェーン関連で1330億円の計画に署名
西北地区に位置し、山地高原多い甘粛省は、日本より1回りほど大きい面積に2647万(2019年)が住む。1人当たりGDPは中国最下位クラスと決して豊かな地域ではない。
甘粛省だが、5月中旬に「5G/ブロックチェーン+工作推進会」を開催。大きな設備投資計画に署名している。まず5G基礎設備の建設に総投資額71億元(1070億円)、そしてブロックチェーン(一部+α)では総投資額88億元(1330億円)の契約に署名している。
その計画では、省・市・県(日本と異なり県は市の下位行政単位)を一体化し、5G基礎設備、ブロックチェーン基礎プラットフォーム、データセンターなど新型基礎施設の建設を加速する。“如意之鏈”(思うがままにできるブロックチェーン)を作り、全省の重点工業園区、工業企業をカバーするとともに、伝統産業のデジタル化、スマート化を加速するという壮大な計画だ。
海南省 100社のブロックチェーン企業誘致、1000社を援助、1万人の専門家を育成
ベトナム、フィリピンに面する海南省は、人口945万人(2019年)と少ないが、省全体が経済特区、自由貿易試験区に指定されている。その海南省には、ブロックチェーン試験区があり、昨年、ブロックチェーンを用いた都市サービスプラットフォーム構築を目指す「ブロックチェーン海南計画」が発表されていた。
海南省ブロックチェーン協会が5月中旬発表したのが「個十百千万計画」だ。これだけ聞くと何のことだかわからないだろう。「個」は協会がいくつかの基本プラットフォームを作るということ。「十」は協会が国際的なハイレベル大会を10回開催すること、「百」は100社のブロックチェーン企業を誘致し、「千」は協会が1000社を援助しようということ。「万」は協会認定ブロックチェーン専門家の1万人育成するという目標数だ。その実現のため10億元(152億円)のブロックチェーン産業基金を設立している。
全人代で盛り上がった「ブロックチェーン熱」テンセント、バイドゥ、フォビのトップらも言及
このように地方政府の動きが活発だった5月の終わりに、いつもより中国2ヵ月半遅れの全人代が行われた。中国では、全国人民代表大会と中国人民政治協商会議(全国政協)が同時開催されるため“両会”と表記されるが、中国最大の検索エンジン、百度(バイドゥ)のテータによれば、キーワード「#両会」「#区快鏈」(ブロックチェーン)のヒットは1050万件に及び、ネット上のブロックチェーン議論は白熱した。
IT巨頭たちも両会代表として参加。全人代代表は、全国の省や市、軍などから選出された約3000人で構成されるが、その1人がテンセント創業者でCEOの馬化騰氏だ。馬氏は「ブロックチェーンは、非常に革新的な技術で、運用可能な領域は広大だ」と強調した。また全国政協委員でもある百度創業者の李彦哲氏は「ブロックチェーン技術は初期段階だが、“革命性”を有した技術だ」などと発言した。
中国暗号資産取引企業の草分けであるフォビHuobi(火幣網)創業者の李林氏も参加した。「ブロックチェーン技術は、知的財産、特許、預金残高証明、売掛金など企業の信用を“増強”する。資金調達の効果的ツールとなり、コスト削減にも寄与し、企業と個人の価値最大化を実現するだろう」と述べたという。
結局、両会で出されたのブロックチェーン関連の提案、意見、声明は34件に上った。1年前の21から大きく増えている。提案の中には、「ブロックチェーンを2022年からの第15次五ヵ年計画に採用すべき」「香港で安定したクロスボーダーデジタル通貨を発行し、日中韓の貿易促進に利用しよう」といったものもあった。
BTCチャイナのトップが招待されたことの意味とは
筆者が注目したのは2017年10月、取引を停止された、暗号資産販売企業BTCチャイナのトップが招待されたことだ。暗号資産販売に対する国・政府の態度の変化を暗示しているように感じられてならない。
日本ではあまり報じられていないが、4月から5月末の全人代閉幕までの1ヶ月間、中国のブロックチェーン産業は大きな盛り上がりをみせた。各地方政府が発表した計画はいずれも勇ましい数字が並んでいる。中国のブロックチェーン業界が、新たなステージへ進もうとしているのは間違いないなさそうだ。
文:高野悠介
編集:濱田 優
写真:習近平国家主席(Shutterstock)