ビットコイン、メインネットの外で最も多く利用されるのはイーサリアムの上

エンジニアたちは、ライトニングネットワーク(Lightning Network)やリキッドネットワーク(Liquid Network)といったオフチェーンプロトコルを開発して、ビットコインのユースケースを拡大しようとしてきた。

オフチェーン:取引のすべてをブロックチェーンに記録するオンチェーンに対して、取引の最初と最後だけをメインのブロックチェーンに記録し、他はメインネットの外で行う方法。データ量の削減、高速化などが目的。

現在、ビットコインを利用した人気の高いオフチェーンプロトコルは、皮肉にもビットコインの最大のライバルであるイーサリアム上で運用されている。

ビットコインに裏付けられたWBTC(Wrapped Bitcoin)や、imBTCをはじめとするイーサリアムプロジェクトは、ライトニングやリキッドよりも70%以上多くのビットコインを保有している。

ビットコインのオフチェーン供給量(ビットコイン vs イーサリアム)

灰色:イーサリアム、黄色:ビットコイン
出典:DeFi Pulse, Bitcoin Visuals, BTConEthereum.com, Liquid.net

7月発行予定のイーサリアムについての書籍『The Infinite Machine』の著者カミラ・ルッソ(Camila Russo)氏にとって、これは「皮肉」だが驚くことでもないと話す。

イーサリアムは「よりフレキシブル」に設計されていて、イーサリアムを使ってトークン化されたプロトコルは「成功していくだろう」とルッソ氏は言う。

一方、ビットコインは「ある特定のことを上手に行う」ように作られている。すなわち、価値をトラストレスかつ検閲が存在しない方法で移動させることだ。

トラストレス:「信頼できる第三者機関」を必要とすることなく、当事者間での取引を可能にすること。

トークン化されたビットコイン

「トークン化されたビットコイン(Tokenized bitcoins)」と呼ばれるこうしたプロジェクトは、イーサリアム上に構築されたDeFi(分散型金融)サービスにおいて、ビットコインを使った取引を可能にしている。例えば、ローンを組んだり、利子を獲得するために、イーサリアムではなくビットコインを使う。

トークン化されたビットコインの供給量は、年初から330%増となっている。

トークン化されたビットコインの最近の伸びは「始まりに過ぎない」と、暗号資産データ企業メッサーリ(Messari)のDeFiアナリスト、ジャック・パーディー(Jack Purdy)氏は述べる。

「イーサリアム上には、驚くほど多様な金融アプリケーションが存在する。イーサリアム上のビットコイン市場が成長するにしたがって、きわめて多くのユースケースが誕生するだろう」

だが、オフチェーン(ビットコインのメインネットの外)で保有されているビットコインは、わずか8285ビットコインに過ぎない(6月3日時点で7900万ドル、約85億円)。一方、ビットコインの合計数は1840万ビットコインにのぼる。

競争ではない

オフチェーンプロジェクトの間に規模の違いはあるものの、一部のプロジェクトは自らをビットコインのライトニングネットワークやリキッドネットワークの競合ではなく、それらを補完する存在と考えている。

「WBTCは、イーサリアム上のビットコインであり、ライトニングネットワークにとっては補完的なもの」と、暗号資産カストディアンのビットゴー(BitGo)のプロダクトマネージャー、キアラシュ・モサイェリ(Kiarash Mosayeri)氏は述べた。 ビットゴーは2019年1月にWBTCのローンチを支援している。

イーサリアムベース、あるいはビットコインベースのオフチェーンプロトコルの成長は、「ビットコインのネットワーク効果を増大し、多くのアプリケーションと開発者を惹きつけている」とモサイェリ氏は述べた。

ビットコインのオフチェーン供給量のシェア推移

青:リキッド、水色:ライトニング、他はWBTC、imBTCなど
出典:DeFi Pulse, Bitcoin Visuals, BTConEthereum.com, Liquid.net

ビットコインネットワークに構築されたライトニングやリキッドも、イーサリアムネットワーク上のトークン化されたビットコインと同様に、ビットコインの有用性の拡大を目指している。

「私はライトニングネットワークの大ファンで、コマース、そしてゲームのような新しいアプリケーションにとってますます重要になるだろう」と話すのは、Thesisのマット・ルオンゴ(Matt Luongo)CEO。Thesisは 5月にトークン化されたビットコインの1つである「tBTC」をローンチした。

より高度な機能

他のブロックチェーン上でビットコインを使用することに対する関心が高まっていることは、「ビットコインブロックチェーン自体では直接的に実現不可能かもしれない、より高度な機能を生み出すことへの関心」を示していると、リキッドネットワークの開発企業で、ライトニングネットワークの実装のひとつ「c-lightning」を手がけるブロックストリーム(Blockstream)のエンジニア兼リサーチャー、クリスチャン・デッカー(Christian Decker)氏は述べた。

どちらのタイプのオフチェーンプロトコルも重要だと話すのは、ビットゴーやThesisでの勤務経験があるオリビア・ロベンマーク(Olivia Lovenmark)氏。

「tBTCやWBTCのようなトークン化されたビットコインは、ビットコイン保有者の選択肢を広げるため、個人にとってよりエキサイティングなものになり得る。一方、ライトニングやリキッドはネットワークインフラを改善し、広い意味でコミュニティに対するメリットとなる」

ビットコインにとってメリットは?

究極的には、イーサリアムネットワーク上であれ、ビットコインネットワーク上であれ、こうした動きはユーザーがビットコインでの取引を望んでいることを示している。

デッカー氏によると、他のブロックチェーン上でビットコインを使うことへの関心は、「ビットコインネットワークへの関心が高くなり、他の暗号資産はビットコインに負けつつあることを示す強力なサイン」だ。

だが「イーサリアムネットワークのユーザーが、ビットコインを利用したいが、ビットコインネットワークには移行したくないと思うことは、驚くことではない」とデッカー氏は付け加えた。

「これは、トークン化されたビットコインがビットコインネットワーク上ではなく、イーサリアムネットワーク上に存在する理由とも言える。つまり、トークン化されたビットコインのユーザーは、ビットコインネットワークの基本的な機能にはないものを求めている」

プロジェクトの動機はさておき、こうしたイーサリアムベースのプロトコルは、幅広く利用されることによって、ビットコインにメリットをもたらすだろうとロベンマーク氏は述べた。

「ビットコインのオフチェーンプロトコルの成長は、保有者にとって選択肢が広がることを意味する。つまり、ビットコインのユースケースを増やし、普及を促進することになる」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:Ethereum Has Become Bitcoin’s Top Off-Chain Destination