国連でブロックチェーンを研究するマッシモ・ブオノモ(Massimo Buonomo)氏は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)が「銀行口座の必要性を低下させ」、やがて銀行口座をリプレースする可能性があるとの考えを明らかにした。
銀行とクレジットカードはデジタル決済において長く独占的地位を確立してきた。しかし、低金利は銀行口座の存在価値が下げ、デジタル通貨の出現はその下方圧力をさらに強める可能性があると、 ブオノモ氏は6月4日に開かれたポストコロナ時代のグローバル経済秩序をテーマにしたオンライン討論会で述べた。
中央銀行が低金利政策を進めている以上、口座保有者は他の手段で利息を稼ごうとする行動を強めるだろうと、同氏は加える。
イングランド銀行(Bank of England)はマイナス金利の導入を積極的に検討しているが、そうなれば預金者は銀行に金利を支払うことになる。アメリカのトランプ大統領も先日、マイナス金利を「ギフト」と呼び、賛成の意向を表明した。
金利は銀行口座に残された唯一の武器
ブオノモ氏は、金利は銀行口座に唯一残されたき重要な武器だと話す。しかし、電子決済を簡単に処理できるデジタル通貨により、銀行口座はその存在価値が失う危機に直面している。
「(デジタル通貨によって)最も苦しめられるのは、クレジットカード会社と銀行だろう。なぜなら現在の金利状況では、銀行口座を保有する(唯一の)メリットは、デジタル決済を可能にすることだけだから」
ブオノモ氏は国連で10年近くフィンテックやブロックチェーン、暗号資産(仮想通貨)の研究を行っている。国連はこれまでにシリアに対してイーサリアムを使った支援活動を行ったり、ユニセフ(国連児童基金)への暗号資産による寄付を可能にするなど、暗号資産に関わるの数々の取り組みを始めている。
4日の討論会でブオノモ氏は、銀行はハッキングに対して脆弱性を持ち続けており、またクレジットカード会社とともに取引手数料を課すことで摩擦を生んでいると言う。
一方、デジタル通貨は「クレジットカード会社に手数料を支払う必要も、送金手数料を銀行に支払う必要はない」
社会保障システムはCBDCの発行モデルとなる
もちろん、どのような種類のデジタル通貨が銀行口座に取って代わるのかという疑問は残る。ビジネスメディア「City AM」が3月に行った取材で、ブオノモ氏は、ビットコインとイーサリアムは法定通貨に取って代わる可能性があると述べている。
また、同氏は4日、ほとんどのパブリックブロックチェーンは、技術的制約とプライバシーの制約により、CBDCにはあまり適していないと話す。規制当局は包括的な管理を行う必要があるが、多くのパブリックチェーンはそれに必要な手段を保持していないと説明した。
中央銀行が直接国民にCBDCを発行する「1層モデル」は、「最も破壊的」であり、実現可能だとブオノモ氏は話す。中央銀行は先進国で普及している洗練された社会保障システムを利用して、障害のある人や失業者など「最も援助を必要とする人」にCBDCを配布することができる。
ある意味、社会保障システムが中央銀行にとっての発行モデルになり得ると言わんばかりの説明だった。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:ニューヨーク・マンハッタンの夕暮れ(Shutterstock)
原文:Digital Currencies Could Replace Low-Interest Bank Accounts, Says UN Expert