「日本版CBDC」の技術的課題は何か?──JBAがオンラインイベント開催、日銀、ビットフライヤー、LayerXなどから参加

今や世界46カ国の中央銀行が発行を検討していると言われる「中央銀行デジタル通貨」(CBDC)。中国のデジタル通貨電子決済(DCEP、いわゆるデジタル人民元)が注目されているが、日本でも少しずつ動きが出ている。たとえば日本銀行がイングランド銀行や欧州中央銀行(ECB)などとともにワーキンググループを設置しているし、最近では、自民党の金融調査会が安倍首相にCBDCの政策提言書を提出している。

こうした中、「日本版CBDC」について考えるオンラインイベントが6月11日夜、行われた。主催は日本ブロックチェーン協会(JBA)で、同協会CBDC分科会が実施。午後7時に始まり、同8時半の終了予定時刻を延ばして行われたが、遅い時間になっても多くの参加者がオンラインで聴き続けるなど、CBDCに対する注目度の高さをうかがえるイベントだった。

日銀、ビットフライヤー・ブロックチェーン、ソラミツ、LayerXなどが参加

パネリストは6人で、大野紗和子氏(スタートバーンCOO)、加納裕三氏(JBA代表理事、bitFlyer Blockchain代表取締役)、副島豊氏(日本銀行 FinTechセンター長)、中島真志氏(麗澤大学教授)、中村龍矢氏(LayerX執行役員)、宮沢和正氏(ソラミツ代表取締役)。モデレーターは福島良典氏(JBA理事、LayerX CEO)が務めた。

冒頭、ソラミツ・宮沢氏と日銀・副島氏がそれぞれCBDCについてプレゼンした。宮沢氏が代表を務めるソラミツはカンボジアの中銀デジタル通貨「バコン」を開発したほか、トークン型のデジタル地域通貨「Byacco/白虎」を開発している(2020年7月1日から福島県会津若松市の会津大学内で正式運用を予定)。

宮沢氏はカンボジアがCBDCを導入することになった背景や、導入時にあった議論について紹介、中国のDCEPやスウェーデンのe-クローナ、米国CBDC、リブラなどと比較した。バコンは2020年4月から正式運用する予定だったが、コロナウイルス感染拡大の影響で延期されているという。

さらにCBDCを「口座型」と「トークン型」分類してそれぞれの特徴について解説、CBDCで使うブロックチェーン技術のメリットと課題について整理した。

副島氏はまず、CBDCを出すこと自体を目的とした議論があるが、目的はよい決済サービス、よい金融サービスを生むための決済インフラを作り、それが実体経済の成長につながることが目的になるべきと指摘。その目的のためにCBDCが要るかどうか、どういうものにすればいいかを議論するべきだなどと述べた。

その上で「中央銀行が提供するマネーとは」というテーマからプレゼンを開始。現在の決済インフラが抱える階層構造の問題について解説したほか、CBDCをリテールとホールセールに分類し、特にリテールCBDCの課題などについて触れた。リテールCBDCが持つべき性質として挙げた「ユニバーサルアクセス」については、具体的には、オフライン決済をどうするか、スマホやネット接続がないなどのデジタル格差の存在についてどうするか──といった点を挙げた。

「心配なのは導入・運用コストと相互運用性」

パネルディスカッションでは、『アフター・ビットコイン: 仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者』(新潮社)の著者でもある麗澤大学の中島氏が、ビットコインからアルトコイン、ステーブルコインを経て、今はデジタル通貨が注目されているという「仮想通貨からデジタル通貨へ」の流れがあると指摘。ステーブルコインはステーブルといいながらボラティリティがあることを問題視するなど、それぞれの通貨の特徴について説明した。

デジタル通貨については、発行を模索しているプレーヤー・主体が民間銀行・中央銀行・民間企業で三つ巴の状況にあると述べた。またCBDCを大口決済と小口決済に分類して整理、それぞれの考え方や課題についても指摘した。

LayerXの中村氏は、興味の対象として、CBDCにだけではなく、その送金を実行する上で根拠となった契約や請求などを含む“経済活動”をどこまでデジタル化できることかだと表明。「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに掲げている同社らしい立場から、技術的な課題への認識と解決策のアイデアなどを披露した。

ビットフライヤー・ブロックチェーンの加納氏は投資銀行での経験を披露しながら主にホールセールの分野について言及、ファイナリティやカウンターパーティーリスクの重要性を指摘し、ファイナリティがない(中銀決済の完了が確認できない)CBDCは意味がないなどと述べた。

ブロックチェーンを用いたアート評価・流通のインフラを開発しているスタートバーンの大野氏は、CBDCについて利用する企業としての立場から発言。気になっている点として、導入や運営にかかるコスト、プログラマブルマネーかどうか、相互運用性があるかどうか──などを挙げた。

その上で、CBDCの普及が考えられる用途として、 「契約にもとづいたステークホルダー間の小口・高頻度の収益配分」と「サブスクリプションペイメントの管理」を挙げた。また日本の携帯電話の例を引き合いに「ガラパゴス化」への懸念も表明。世界各国がCBDCを検討している中で、国をまたいで使えるのかどうかという不安があることも明らかにした。

技術的に難しい「オフライン決済」の問題

イベントでは技術的な課題の議論について時間が割かれた。特に「オフライン決済」の難しさや問題点などについての言及が相次いだ。

ソラミツ・宮沢氏は、過去に電子マネー「Edy(エディ)」(現・楽天Edy)立ち上げの中心的や役割を果たした人物だが、その宮沢氏が「オフライン決済は難しい」と言い切った。

コンビニなどの店頭で決済する際、SuicaやEdyなどの電子マネーを用いた支払いは、クレジットカードと比べて処理がすぐに終わるように見える。このことについて宮沢氏は、「バッチ処理をして後で台帳を書き換えているから(早い)。その反面、あとで(台帳の)つじつまが合わないということがあり得る」と明かした。中国のDCEPもオフライン決済を採用しないというが、それだけ難しいということだろう。

そのほかの技術的課題として、スケーラビリティ、 匿名性の担保とアンチマネーロンダリングのバランス、鍵をなくした場合の利用者保護、トランザクションデータが見えるプライバシーの問題などを挙げた上で、「バコンはスケーラビリティ以外の問題は解決している」と話した。

さらに、大野氏が挙げた「サブスクリプション」に触れ、そのような小口決済が増えると、決済件数は増えるが金額は伸びない状況になり、高コストの決済システムを使い続けることに経済合理性があるのか疑問になるとの視点を提示。CBDCの導入にあたっては大口決済と小口決済を分けて考え、現金決済を代替するものにすべきだと主張した。

匿名CBDCと実名CBDCをつくる?

LayerX・中村氏は二重支払い対策や、スケーラビリティの問題について触れた。ブロックチェーンのスケーラビリティについて、「そんなに問題にならないと思う」と指摘。その理由として、「ブロックチェーンのスケーラビリティの問題で一番のボトルネックはコンセンサスで、遠くに存在するノードが多く、同じネットワークを使っていないからネットワークの遅延が生まれる」などと述べ、CBDCでは(インフラも充実しているはずなので)そうした状況は起きないだろうという認識を示した。

ただプライバシーの問題については率直に「難しいと思う」と述べ、解決は方向性は見えつつも数年はかかると予測した。

加納氏は中村氏の意見に同意を示しつつ、スケーラビリティ問題については、(ノードと確認するトランザクションを複数のグループに分けて処理を短時間で行う)シャーディングが答えの一つになるとの見解を示した。

また宮沢氏がデジタル地域通貨を紹介していたこともあって、加納氏もCBDCを国内の地域で分散して──たとえば都道府県ごとに──運用するという案(ローカルセトルメント)について触れ、「たとえば東京から北海道と大阪に同時に払うとした場合、セトルメント(決済完了)の担保をどうするかということになる。それぞれ確認できるまで待つと時間がかかるし、二重支払いを避ける手立ては難しい」などと述べた。

またCBDCによる決済が現金での支払いと違って「匿名性がない」ことについても触れ、匿名CBDCと実名CBDCの2つをつくればいいと提案した。マネロン対策のため本人確認は必須だが、中央銀行がKYCをすべてやるのは現実的ではないとして、KYC業務の外注を市中銀行に委託すること、たとえば10万円未満・以上で使い分けるようにすることで、CBDCを導入した後も匿名性を維持しながらマネロン対策ができると話したが、「実際には(反対も多く)難しいだろう(笑)」とも述べていた。

文・編集:濱田 優
画像:CoinDesk Japan編集部