証券各社が投資のハードルを下げるために「スマホ証券」や「ポイント投資・運用」などに注力する中、大手証券会社・大和証券グループも7月1日に参入する。2019年に設立した子会社の「CONNECT」(コネクト)が6月26日、7月からのサービス開始を発表した。
同社は1株単位でリアルタイム取引ができる「ひな株」サービス(NISA対応)のほか、Pontaや永久不滅ポイントを利用した投資が疑似体験できるサービス、株主になる体験ができる街づくりゲームアプリも提供する。
大和証券でオンラインビジネスに長く従事してきた大槻竜児社長に、コネクトが目指すものについて訊いた。
なぜ「1株投資」を始めるのか 「価格の乖離・時間の乖離を解消したい」
──コネクトの構想・サービスはいつごろから検討していたのでしょうか。
サービスの検討を始めたのは2018年8月です。ちょうどその頃、大和証券が取り切れていない20代、30代を中心としたいわゆるデジタルネイティブ世代に向けたサービスを立ち上げるための準備室が大和証券内に設立されました。
ただ経営陣から「こういうサービスをやれ」と言われたわけではなく、まずどんなサービス、どんなアプローチがいいのか考えるところから始めて、最終的に「株式投資」を選びました。
──なぜ「株式投資」を選ばれたのですか?
私自身、30年近く株式に関わってきて、配当や優待の魅力、所有するだけで資産を生む魅力、身近なものに投資できる面白さがあるのに若い人たちに伝えきれていないという思いがあった。
株式投資は、社会とのつながりを感じられるものであり、資本主義を支える、経済の発展につながるものです。投資信託でも分配金は得られますが、基本的に利益は再投資されるものですし、個人投資家からしてみれば「特定の企業を応援する」という類の商品ではありません。その点、株式投資は自分が選んだ先に直接投資できる点も面白い。
証券会社に入社してまさか証券会社つくるとは思いませんでしたが(笑)、少額での取引を可能とするとともに、リアルタイム約定に挑戦して価格の乖離と時間の乖離を解消したいと思いました。
──価格と時間の乖離ですか?
はい。まず「価格の乖離」についてですが、要は株式投資をするのに多額の資金が必要だということです。昔は1000株単位、今でこそ100株単位ですが、それでも数十万円くらいは覚悟しなければいけない。若い人がおいそれと出せる額ではないですよね。そこで少額での取引を可能とする「ひな株」を始め、1株単位で買えるサービスを提供することにしました。
1万円など「金額単位」で買えるサービスにするか、「1株単位」で買えるようにするか悩みましたが、1株ごとにしました。若い方が見るのはネットかもしれませんが、新聞の株価欄にある価格で買えるという点で分かりやすいですし、1株ずつ買い増して1単元(100株)に到達すれば、優待も受けられます。
そして「価格の乖離」は、約定価格のことです。各社の提供する単元未満株式のサービスは、注文しても約定して値段が確定するのは当日の終値や翌日の始値であることがほとんどです。最近の相場のように日中に大きく値動きがあると、注文時に見ていた価格とまったく違う値段で約定することもあります。
そこに加えて「時間の乖離」で、翌日にならないと約定しない、価格が分からないというサービスでは、スマホで便利なサービスに慣れ親しんだ若い世代は違和感を覚える。取引所の時間内であれば、注文したら、いま見ていた値段でリアルタイムに約定するというレスポンスの速さでサービス提供したかった。
──御社サービスは1株ごとに買える点だけでなく、ポイント投資も特徴です。
共通ポイントであるPonta(ロイヤリティ マーケティング)、永久不滅ポイント(クレディセゾン)などを振り替えて疑似運用できるサービスです。指定の上場株式の1株価格に残高が達したら、実際の株式に交換できます。
我々が優先したのは、身近なポイントを通じて擬似的な投資体験ができる機会をつくること。そのために個別株式のポイント運用で特許をお持ちのSTOCK POINTさんと提携しました。実際の投資ではマイナンバーを提出して口座を開設しなければいけませんが、ポイントを通じた擬似運用であれば、すぐに始められます。
株式投資を楽しんで欲しい。理想は「国民総株主」
──報道で「100万口座」を目標に掲げられていると読みました。
大和証券の300万以上ある口座の中で、メインのお客様層は60~70代です。我々が将来の大和証券のために若い顧客層を獲得しようという時に、数万口座できてもグループの顧客の年齢構成は変わらない。新しい顧客基盤を作るという観点でいえば、100万口座くらいは意識しなければいけないでしょうということです。
──あくまで株式投資を楽しんでほしいと。
今のような金利情勢の中で、株式投資は配当が平均2%ありますし、資産が資産を生むという状況が作れる点では株式が優位だと思います。
長期投資の視点を持てば、値動きをずっと追い続けて一喜一憂する必要もないですし、経済の勉強にもなる。学生のうちに株式投資を始めれば就職活動の企業選びの参考にもなります。株式は保有するだけで、社会とつながることができる。そういう金銭的以外の価値がある。松下幸之助さんが「国民総株主」を願っていたそうですが、まさに同感です。
──どういうサービスを追加して行こうと考えていらっしゃいますか?
スタート時点では単元株取引、1株ごとの売買と一般NISAから始めて、年内には IPO、信用取引にも対応して、株式売買では一通りできるようにしたい。1株で売買できる「ひな株」の銘柄は流動性(出来高)も意識しながら、銘柄を増やしたい。つみたて NISAは年明けを目標に準備しており、つみたてNISA銘柄を中心に投資信託も提供する予定です。
社名の由来、ロゴカラーに込められた意味
──コネクトという社名の由来は何ですか?
一つは、未来につながる、友達や家族とつながる投資であって欲しいという意味。あと、大和証券として何でも自前主義で作るのではなく、広く利用されている企業やサービスとつながる存在になりたいという意味もあります。
たとえば問い合わせ対応にはLINEを使うことにしています。似たようなSNSを自前で作るのではなくて、多くのお客さんがLINEを使っているなら、我々もそれを使う。広く使われているサービスと連結したほうがいい。だからポイントサービスについても最初はPonta、そして永久不滅ポイントですが、今後増える可能性はあります。
──WebサイトでLINEのお友達登録の募集を早くからされていましたが、顧客対応もLINEやWebチャットを基本にされるんですね。
基本的に顧客コミュニケーションを電話ではなく、LINEやWebチャットでまかなうのは大和証券にはなかったやり方で、新しい文化づくりでもあります。
コールセンターのあり方もかえたいんです。いま若い人は電話をかけないですよね。ある統計では、SNSに費やす時間の1日平均は1時間だそうですが、電話は2分そこそこだそうです。つまり「お問い合わせは電話で」は基本ありえないわけです。チャットの技術が高い会社と組めたので、ボットを使った自動対応とスタッフが返信する有人対応の両方を組み合わせて、切り替えてやります。
──気になったのがロゴの色です。一般に企業ロゴの色ってはっきりした色が多いですが、とても淡い色使いです。
十二単とかで使う配色の「襲色目」(かさねいろめ)の「白なでしこ」という配色です。大和証券が6年連続で「なでしこ銘柄」に選定されていること、東京オリンピックを翌年に控えた令和元年度にできた会社なので、「日本の和」をモチーフにしたかったんです。
編集部註:襲色目(かさねいろめ、かさねのいろめ)とは、四季それぞれの季節や情景を想起させる色の組み合わせ。季節感のある名称がつけられており、その配色は専門書などでは200以上ともいわれる。十二単など、平安時代以降の公家で女房の服飾・着物の表地と裏地の配色に使われた。異なる色の組み合わせは、着物の表裏によって、または重ね着によって、さらには異なる糸を織ることによって表現された。白撫子は、裏に中蘇芳、中紅、中紅梅、中青、淡青(すべて色名)を配色。表の衣は白(または紅)で裏が透け、独特の淡い色合い。夏に用いられたという。
たしかに企業には色戦略があって、この会社は赤、あの企業は緑と決まっていますが、オープン戦略を取っている以上、特定の色に偏りたくないという思いがあります。何色の会社さんとでも組みますという意思ですね。
お客様が普段使っているサービスがそれぞれつながる。利用者にとって使いやすいもの同士がつながる。それらを我々がつなげる。そういうふうに社名やロゴ、色などのコンセプトを固めました。
アプリのファーストビューで各銘柄の損益を見せない理由
──そういうこだわりがあったんですね。
実はアプリのフォントもオリジナルで作りました。日本語フォントは難しいので数字だけですが、読みやすいよう10%細く長くして、カンマの形も調整を重ねました。私は今51歳なのですが、自分が見えづらくなるようなものは NGにしました。単純に、見えない、読みづらいものってすごくストレスになるし、使うのが嫌になってしまいますから。
──アプリのみやすさにもこだわった。
こだわったのはフォントだけでないんです。実はアプリの資産管理画面のファーストビューでは、保有銘柄の損益を見せていないんです。お客さまが最初の画面で見られるのは、持っている株の価格でも、それぞれの株で損失が出ているのか利益が生まれているのかでもなく、自分がいくら持っているかだけです。もちろんボタンを押せば、各銘柄の詳細は分かりますが、ファーストビューで損益を見せていないのは大きな特徴だと思います。
──それは意外です。たいてい株ごとに取得単価よりプラスかマイナスかが色分けされて表示されているイメージです。
個別の銘柄の価格やマーケットの動向ばかり気にする必要はないと思うからです。そもそもポートフォリオって、相関の異なるものを組み合わせて、それぞれが違う動きをすることでバランスが取れるわけです。
たとえば投資信託を買ったとして、その投信の基準価額は気になっても、各構成銘柄の価格の上がり下がりまで見ませんよね。それと同じことです。
ポートフォリオを構成する銘柄それぞれの上がり下がりではなく、ポートフォリオとして全体を把握すればいい。ただこれは支持されるかどうかちょっと分からずちょっとドキドキしていますが(笑)。
とはいえ、これは絶対に変更しないというわけではなく、利用開始後にお客さまの声に真摯に耳を傾けて取り入れるべきものは取り入れることはしたいと思っています。
株式投資について学べる街づくりゲームアプリも開発
取材・編集:濱田 優
写真:森口新太郎