アメリカで拡大する分散型金融は世界17億人を救えるか?

世界中で17億人が銀行口座を持っていない。彼らに何を望んでいるかを尋ねる機会があるとして、果たして「銀行口座」と答えるだろうか。伝統的な金融業界では、銀行口座は金融包摂(フィナンシャル・インクルージョン)の究極の目標と考えられている。

銀行口座の代わりに、開発途上国では共有の価値にもとづくコミュニティベースのシステムを数多く生み出し、自らの環境の中で経済的なパワーを獲得してきた。

お金の融通を目的とする民間の互助組織(日本では頼母子講や無尽講と呼ばれる互助組織)を研究することで、ブロックチェーンが既存の取り組みを改善できる機会を発見したり、ポジティブな影響を拡大できるかもしれない。

製品開発に対するこのアプローチは、より多くの利用者を獲得できるソリューションと、普及へのより優れた道筋を作ることができる。

フィリピンの「パルワガン(paluwagan)」を事例として見てみよう。

パルワガンの仕組み

最もシンプルな形態のパルワガンとは、貯蓄を目的にお金を持ち寄る人たちのグループを言う。グループのメンバーはどのくらいの額を、どのくらいの頻度で提供するか、基本的な条件を話し合いで決める。

例えば、給料日ごとに1000ペソ(約2000円)を持ち寄り、交代でお金を集める。2週間ごとに給料を受け取る8人のグループだとすると、8回つまり16週間お金を持ち寄り、そのたびに1人が合計額の8000ペソを受け取る。グループの人数が多くなるほど、受け取る金額は大きくなる。

銀行などを必要としないため、この種のパルワガンは透明性が高くて効率的と考えられており、記録を残す必要もない。メンバーシップは純粋に社会資本にもとづいているため、参加することも簡単。

唯一の参加基準は、お互いを信頼できるかどうかだ。会社の同僚、近隣、他の仲間うちでパワルガンは人気となっている。

メリット

誰もが同じ責任を持つという要素は、グループ全体のパフォーマンスはより良い結果に結びつくという考えに従い、予定通りの支払いを促し、貯蓄へのモチベーションと規律をもたらす。

また楽しくもある。パルワガンの主な目的はグループの金銭的な目標を達成することだが、同時に交流とネットワークづくりの機会であり、関係を深め、コミュニティ意識を確立する機会にもなる。

「銀行にお金を預けようとしようとしたが、当時はまだ大きな責任のない独身男性で、難しかった」と若いフィリピン人のジェラード(Gerard)は私に話してくれた。彼は職場の同僚と一緒にパルワガンに加わり、ノートPCを買うために2万ペソを貯めた。

「パルワガンに参加することはお金を貯める良い方法。なぜなら給料日ごとにお金を支払う責任感を持つことができ、お金を確実に貯めることができる」

結婚して子供がいる他のメンバーは、誕生日や家族との休日などの行事や、学費のためにお金を貯めている。

デメリット

具体的な期日を考えている人は、受け取りを最後にすることを希望する場合もある。だが、リスクもある。なぜなら、途中でお金を滞納する者が出る可能性があるからだ。

滞納者は早めに支払いを受け取り、その後の支払いを行わないため、パルワガンの価値を下げてしまう。

「最初に詐欺師を見つけ出すことは簡単だ。彼らは早い回に支払いを受け取ることを主張する」とジェラード氏。「支払いを手にした直後に姿を消したパルワガン仲間を何人か見てきた。特にコールセンターのように人が入れ替わりやすい会社では、最も信頼できる友人ですらそうするだろう」

パルワガンは登録も規制もなく、支払いに対する保証もない。正式な苦情処理の仕組みもないため、途中で抜けた人や詐欺師に対して法的な請求は不可能だ。

さらに、フィリピン証券取引委員会は、ソーシャルメディアで大きなリターンをアピールするパルワガン詐欺に対して警告を発している。

世界中に存在する私的金融

それでもパルワガンの魅力は根強い。この仕組みはフィリピンだけではない。マレーシアでは「Kutu Funds」と呼ばれている。ボリビア、ペルー、アルゼンチンのスラム街では、Vaquita、Reuda、Pasanakuなどと呼ばれている。

一般にROSCA(回転型貯蓄信用講、Rotating Savings and Credit Association)と呼ばれるこうした互助組織、あるいは私的金融は世界中に存在する。ROSCAは、その性質や目的が、メンバー、目的、歴史、文化に根付いているため類型化することは難しい。

出典 : Nccaofficial/Creative Commons

ROSCAのバリエーションとして、ASCA(累積型貯蓄信用講、Accumulated Savings and Credit Association)がある。順に支払いを受け取る代わりに、集めたお金を融資や地域プロジェクトに投資する。そして例えば1年後に、お金は利子を加えてメンバーに支払われる。

ASCAモデルは、ROSCAのような通常のマイクロファイナンスに代わる、より持続可能な方法になるかもしれない。ROSCAは負債を拡大する一面があることが知られている。

DeFiとの類似性

こうした私的金融のアイデアは、アメリカの暗号資産市場で急拡大している「DeFi(分散型金融)」の動きに似ている。DeFiはブロックチェーン上に構築された金融サービスで、従来の銀行業務を模倣して、貯蓄、融資、金利収入などさまざまなサービスを提供している。

だが分散型であることは、オープンなピアツーピア(P2P)ソリューションであり、中央集権的な機関ではなく、コミュニティによってコントロールされることを意味する。

イーサリアムブロックチェーン上のDapp(分散型アプリケーション)「プールトゥギャザー(PoolTogether)」はパルワガンに似ている。

プールトゥギャザーは「損失のない宝くじ」を謳っており、ユーザーは一定期間、お金を預け入れる。期間終了時には全員が自分が預けたお金を受け取り、その中の1人の幸運な投資家は、期間中にファンドが稼いだ金利を受け取る。

事前に設定された基準にもとづいて自動的に実行されるスマートコントラクトを活用することで、DeFiはROSCAやASCAに内在する脆弱な信用メカニズムを克服できる。

さらなる可能性

おそらく最も興味深いことは、暗号資産をよりユーザーフレンドリーなものにしたDeFiウォレットでは、秘密鍵が不要になることだろう。その代わりに、紛失したウォレットを回収したり、1日の上限を超えて取引を行うなど、高度なセキュリティが求められる場合には、ユーザーはリクエストの承認に友人や家族を指名できるようになる。

このマルチ署名機能は、村落貯蓄貸付組合(VSLA:Village Savings and Loan Association)の特徴であるトリプルロック型キャッシュボックス(triple-locked cash box)に似ている。

VSALは説明責任のあるガバナンスにもとづき、ROSCAやASCAのより強固なシステムとして認識されている。開発途上国の数百万もの貧しい女性に、金銭的支援を行うことに成功している。ボックスの鍵を開けるためには、民主的に選出されたVSLAの責任者、副責任者、現金出納係の立ち会いが必要で、3人がそれぞれ別の鍵を持っている。

既存の私的な金融システムが持つ暗黙の社会的価値を評価することは、技術者に世界中で最も根強い課題に取り組む機会を提供する。特にDeFiは、数世紀とは言わないまでも数十年にわたって好まれてきたコミュニティのコラボレーションに効率性と拡張性をもたらす可能性がある。

だが地球上で最も貧しいコミュニティでは、電力、インターネット接続、スマートフォンといった最も基本的な要件の一部がまだ確保できていない。多くの人にとっては、パルワガン、あるいはおそらくVSLAが依然として最善策だ。


リア・キャロン-バトラー(Leah Callon-Butler)は、アジアの経済発展におけるテクノロジーの役割に焦点を置くコンサルティング会社、エンファシス(Emfarsis)のディレクター。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:ShutterStock
原文:What DeFi Can Learn From ‘InFi’