IBMは顧客の銀行を暗号通貨の世界に招き入れつつある。
現地時間2019年3月18日の発表によると、IBMは国際的な銀行6行とIBMのステラ(Stellar)ブロックチェーンを使った決済ネットワーク「World Wire」で、法定通貨と連動したステーブルコインを発行することに合意した。World Wireを使うことで、銀行は国境を超えた資金の移動 ─ 送金や決済 ─ を従来の国際決済システムを使用するよりも速く、安価に行うことができるようになる。
現時点で3行 ─ フィリピンのリサール商業銀行(RCBC)、ブラジルのバンコ・ブラデスコ、韓国の釜山銀行の名前が明らかになっている。残りは間もなく明らかになるが、ユーロとインドネシアのルピアのデジタル版を提供する銀行で、IBMは「規制当局の審査と許可を待っている状況」と述べた。
ネットワークは18日から稼働した。銀行は規制当局の承認を待っている状況だが、World Wireでは同じタイミングで、あるステーブルコインが稼働した。すでに発表済みのドルと連動したステーブルコインで、サンフランシスコに拠点を置くスタートアップ企業ストロングホールド(Stronghold)が発行元。
「World Wireの運用はまだ限定的なもの」とIBMの金融機関向けブロックチェーンの責任者ジェシー・ルンド(Jesse Lund)氏は語った。
実際、ストロングホールドの暗号通貨はドルと交換可能だが、今のところアメリカ国内に入出金できる場所はない。この件については、IBMはアメリカの規制当局から「口頭での好意的な返答」を受け取っているとルンド氏は述べた。
「アメリカ国外のマーケットからスタートさせたが、アメリカをエンドポイントとして加えることにそれほど時間はかからない。今年中、おそらく第3四半期か第4四半期になるだろう」
それでも現状、World Wireには72カ国、48の通貨、46の「バンキング・エンドポイント」(銀行や送金事業者など)が参加しており、人々は現金を送ったり、受け取ったりできるとIBMは述べた。
今回の合意は独自トークンの発行のみならず、銀行がステラ・ブロックチェーンのネイティブ・トークンであるステラ・ルーメン(XLM)を使う可能性も切り開く。法定通貨での取り引きが難しい場合、ステラ・ルーメンは「ブリッジ通貨」として使用できる。
またWorld Wireは「他の暗号通貨をサポートできる」が、金融機関は暗号通貨のボラティリティを嫌うため、現時点ではステラ・ルーメンのみをサポートしているとルンド氏は語った。
しかし、銀行が支援するステーブルコインについて言えば、大きなビジョンを持っているルンド氏はCoinDeskに語った。
「多くのステーブルコインの登場とともに、外国為替のイメージはやがて大きく変わる。我々はステーブルコインのエコシステムの拡大に全力を尽くす。多くの銀行、法定通貨が参加して、ステーブルコインは法定通貨のデジタル版となり、最後には、中央銀行さえデジタル通貨を発行するようになるだろう」
ステラのパフォーマンス
World WireはIBMとステラにとって最初の大きな成果と言えるだろう。IBMはこれまで、密かにこの分野に取り組んできた。例えば、2017年後半には南太平洋地域においてKlickExと呼ばれる送金サービスに取り組んだ。
これらはすべて銀行出身のルンド氏のアイデアで、IBMの金融サービスにおける将来の役割を見据えたものだ。
「我々は法人向けのプライベート・ブロックチェーンでさまざまなことに取り組んでいる」とルンド氏。
「だが、World Wireは違ったタイプのシステム、違ったタイプのネットワークであり、IBMが運営している。つまり、IBMがこれまでに手がけたことのないもの」
リップルの共同創業者であるジェド・マケーレブ氏が開発したステラは独自に数々の大胆な取り組みを行ってきた。では、IBMの役割は?
ルンド氏はIBMを「ネットワーク・オペレーター」と呼び、同時にステラはまさにプロトコル・レベルのものと語った。そしてIBMの役割には、ネットワーク参加者のための支払いAPI、口座や決済フローを処理する中心的なシステムソフトウエアのメンテナンスが含まれると述べた。
また世界中のほとんどの銀行とつながりを持っていることもIBMの大きな強み。さらにルンド氏は、IBMは「現在、ステラ・ネットワークにおける唯一の、最も信頼できるバリデータ」であり、他の多くのノードはIBMのノードにトランザクションの妥当性を確認してくると述べた。
「ステラのダッシュボードを見て、IBMがバリデート(検証)している様子を確認してほしい。他にも多くのバリデータが存在する。だが皆、我々を信頼している。ネットワークの中では、我々は大きなアンカーのような存在」とルンド氏は語った。
新たな収益モデル
ステラとステーブルコインを数多くの銀行、規制当局に普及させることと同時に、IBMのブロックチェーン部門は、World Wireを使った新たな収益モデルを模索している。
World Wireはおそらくスマートな戦略だろう。銀行は少なくとも投資に対するリターンの可能性を示すプレッシャーに晒されていることは明らかになってきている。
実際、IBMの広報担当者は、従量課金モデルへの移行についてCoinDeskに語った。
「IBMブロックチェーン・プラットフォームの次のバージョンでは、我々は時間単位の従量制に移行する予定。ユーザーは自身が構築するブロックチェーンの構造とコストについて、より柔軟性を持つことができる」と彼女は語った。
そして同様に、World Wireは無料で参加でき、参加者はネットワークを通した決済額に応じて使用料を支払うとルンド氏は語った。
「これによって我々はネットワークをサポートするための収入を維持する。これこそ、金融サービスに参入するためのまったく新しいやり方。IBMがこれまで、手がけたことのないこと」
国境を超えた国際的な決済額は、莫大な額にのぼるとルンド氏。年に数百兆ドルが国境を超えている。つまり、IBMは「決済額を計測し」、使用料として「一定額ごとにきわめてわずかな料金を課金」するとルンド氏は語った。
「ソフトウエアを販売すると言っているわけではない。ブロックチェーンが可能にした新しいネットワークを所有することによって、トランザクションから収入を得る。私はまったく新しいトランザクション・ネットワークについて語っている」
翻訳:CoinDesk Japan編集部
編集:佐藤茂、浦上早苗
写真: IBM image via nattul / Shutterstock.com
原文:IBM Signs 6 Banks to Issue Stablecoins and Use Stellar’s XLM Cryptocurrency