アメリカ人がビットコインを持つ理由──FRBが消費者支払い動向を調査

米FRB(米連邦準備制度理事会)が、国民の支払い方法に関する年次報告書をまとめた。2019年は、暗号資産(仮想通貨)がアメリカで急速に普及する年ではなかったようだ。

FRBのレポートは「Survey of Consumer Payment Choice=SCPC(消費者の支払い方法に関する調査)」と呼ばれ、情報の大部分は現金やカードといった従来の決済手段に関するもの。

決済における現金の使用は2019年も減少を続け、アメリカの消費者の典型的な1カ月の決済の21.5%を占め、2018年の23.5%から減少した。2009年には30%を占めていた。

一方、デビットカード、クレジットカード、プリペイドカードを合わせた決済は、2018年の60%から2019年は61.4%に上昇。新型コロナウイルスの感染拡大のため、2020年はさらに上昇する可能性がある。

70.7%がビットコインを知っている

SCPCは2014年から、暗号資産の利用についての情報も収集している。毎年新たな質問を追加したり削除したりしながら、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)、リップル(XRP)などの利用状況を理解しようとしている。

暗号資産について、SCPCで最も長く続いている質問の1つは「ビットコインについて聞いたことがありますか?」。2019年は、調査回答者の70.7%が「知っている」と答え、2018年の68.7%から増加した。

出典 : SCPC

2014年の調査では、「聞いたことがある」と回答した人はわずか45.1%だった。2017年12月のビットコイン価格の急騰は、ビットコインの認知度向上に繋がった。

他の暗号資産はビットコインほどの知名度はない。2019年、イーサリアムについて「聞いたことがある」と答えた回答者はわずか8.3%。ライトコイン(LTC)は7.5%、リップル(XRP)は2.6%だった。

ビットコインの知名度に迫るのはビットコインキャッシュ(BCH)のみ。40.3%が聞いたことがあると回答した。BCHの実際の利用状況は非常に低いことを考えると、おそらく調査回答者の多くが、ビットコインとビットコインキャッシュを同じものと誤解したと考えた方が良いだろう。

出典 : SCPC

詳しい人はほとんどいない

仮にアメリカ人の多くがビットコインを知っているとしたら、どの程度理解されているだろうか?

SCPCはビットコインについて「聞いたことがある」と答えた人に、どの程度詳しいかを1〜5までの段階で聞いた。1は「まったく詳しくない」、5は「とても詳しい」だ。

2019年、回答者の87.4%は「まったく詳しくない」または「少し詳しい」を選択した。ビットコインについて「やや詳しい」または「とても詳しい」と答えた回答者はわずか4.5%だった。

出典 : SCPC

この数字は2014年から一定で、ビットコインに対する一般の理解の質は低いままで、改善されていないことを示している。

ビットコインはエクストリームスポーツ

では、ビットコインの普及状況はどうだろうか?

ビットコインはエクストリームスポーツの一つの「ベースジャンプ」に少し似ている。高いビルや崖からパラシュートを使って飛び降りるベースジャンピングは、ほとんどの人が知っている。だが、やっている人はほとんどいない。

同じように、多くのアメリカ人はビットコインを知っているが、ほとんどの人は保有していない。2019年のSCPCでビットコインについて回答した3363人のうち、ビットコインを保有していると答えたのはわずか35人、つまり1.0%のみ。2018年の1.2%から減少している。

出典 : SCPC

2019年はビットコインの普及には良い年ではなかったが、この数年は全体的に保有率は上昇している。2014年に暗号資産のデータの収集を開始したとき、ビットコイン保有者は調査回答者のわずか0.4%だった。それ以来、保有率は2倍以上になっている。

ビットコインの保有は他の暗号資産より進んでいる。2019年には35人がビットコインを保有していると答えたが、イーサリアムはわずか20人、ライトコインは16人、ビットコインキャッシュとリップルは10人だった。

ビットコインを何に使っている?

では、アメリカのビットコイン保有者はビットコインを何に使っているのだろうか?

決済ではない。2019年の調査では、3363人中わずか2人(実質的には0%)が、過去12カ月間にビットコインを使って決済を行った。

これは2018年の8人から減少しているが、2014年〜2017年の過去の調査ではほぼ同程度だった。つまり、ビットコインの知名度は上昇し、2014年より多くの人がビットコインを保有しているにもかかわらず、お金としての利用は停滞し続けている。

これは、競合する決済システムと比べた場合、特に顕著になる。2019年、回答者の8.5%(283人)が過去12カ月間にゼル(Zelle)を使って決済をしていた。ゼルは2016年に導入が始まったP2P決済ネットワーク。もう1つの人気のP2P決済ネットワークのベンモ(Venmo)は11.3%が利用していた。ベンモとビットコインはどちらも2009年に誕生した。

出典 : SCPC

ビットコインを保有する理由

では、決済でなければ、ビットコインを保有する理由は何だろうか? SCPCは、暗号資産を保有する動機について質問することで、その答えを探ろうとしている。

最も多い理由は「投資」で、2019年には56%が第一の理由としている。次に多い理由は「新技術に興味がある」が23%で、ホビイスト的な心理を示している。これらの数字は2018年とほぼ同じだった。

出典 : SCPC

「アメリカ国内で商品やサービスを購入する」ため、あるいは「匿名の支払い」のために暗号資産を保有している回答者はほとんどいない。また、ビットコインやイーサリアムを保有する理由に「銀行を信用していない」あるいは「政府を信用していない」を選んだ人もほとんどいない。

そして、典型的なアメリカ人は大量のビットコインを保有していない。

2019年の保有額の中央値は200ドル、2018年の70ドルから増加しているが、これはおそらく9月に行われるSCPCのタイミングによるものだろう。2018年9月のビットコイン価格は約8000ドルだったが、2019年9月は1万4000ドルに達していた。

結論は?

これらのデータから次のような結論を導き出すことができる。

ビットコインは驚くほど多くのアメリカ人の心を捉えることに成功した。しかし、ビットコインについての一般知識はクオリティが低い傾向がある。また、広く普及もしていない。

ビットコイン保有者の割合は2014年より増加しているが、それでも全人口の約1%のみ。保有量もかなり少額。

ビットコインを保有する人たちは、ビットコインを本来の目的である「電子マネー」として使っているわけではない。むしろ、投資やギャンブル、あるいは趣味として使っているようだ。

J.P. コニング(J.P. Koning)は、カナダの証券会社の元リサーチャー、現在はカナダの大手銀行で金融ライターとして働き、人気ブログ「Moneyness」を運営している。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Morning Brew/Unsplash
原文:Bitcoin Has American Mindshare but Few Users