大手IT企業やブロックチェーン企業が参加するトークン標準化団体「InterWork Alliance(IWA)」が、炭素クレジットの「二重計上」を防止するブロックチェーンツールの開発を急ピッチで進めている。
炭素クレジット:温室効果ガスの排出削減量や吸収量を証明するもの。「排出枠」とも呼ばれる。削減量が足りない場合は、市場で取引できる。
炭素会計は、国や企業が排出する、あるいは削減した温室効果ガスの量を開示することによって、気候変動に対応した産業構造を目指す市場メカニズムを構築するもの。
この取り組みには課題もある。
「1本の木が100回以上、販売されていないことを証明する方法は存在しない」とマイクロソフトのブロックチェーンアーキテクトで、IWA会長のマーリー・グレイ(Marley Gray)氏はコメントした。
マイクロソフトが支援するIWAのサステナビリティ(持続可能性)・グループは、炭素会計に透明性をもたらすことを目的としたトークン化の基準づくりに取り組んでいる。
不足している炭素クレジット
大企業は環境に配慮したプロジェクトに参加したり、資金提供することで二酸化炭素排出量を相殺できる。しかし排出量削減のために使用可能な検証済み炭素クレジットは、明らかに足りていないと、グレイ氏は言う。
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「今の世界には、マイクロソフトの今年の排出量削減を満たすだけの十分な検証済み炭素クレジット──『検証済み』であることがポイント──が存在しない。驚きだった。どの大企業も持続可能性に関する大きな目標を掲げているため、検証済み炭素クレジットの供給を改善するために何か劇的なことをしなければならない」(グレイ氏)
IWAの解決方法
IWAのサステナビリティ・グループには、アクセンチュア、Climate Chain Coalition、Digital Asset、ナスダック、Neo Global Development、R3、SIX Digital Exchange(SDX)、Xpansivなどが参加している。
同グループは自主的な温室効果ガス削減を皮切りに、トークン化のための標準フレームワークを作成し、近い将来には認可を受けた市場にも焦点を拡大していく。
これまでにも多くの技術者がブロックチェーンの利用を含め、炭素会計をより厳格にするための方法に取り組んできた。
「多くのスタートアップがこの分野に取り組んだが、どれもクローズドなプラットフォームを作っているようなもので、バイヤーの要求に合っていなかった。そこで我々はこの問題を支援することにし、カーボンクレジットの定義、構成、そしてクレジットの二重計上問題を解決するために、どのようにトークン化すべきかについて皆で合意を図ることを決めた」(グレイ氏)
排出削減プロジェクトの定義づけ
グレイ氏によると「炭素クレジット」という用語は使われ過ぎているという。
IWAの使命の一つは、EU発行のものなど、認可済み市場で取引される炭素クレジットのトークン化に向け、さまざまな種類の炭素クレジットを詳細化することだ。
一方、カーボンオフセット(温室効果ガスの排出削減)は例えば、再生可能エネルギーを利用し、排出を回避することで得られるものと、植樹プロジェクトによって排出を除去することで得られるものがある。
問題点を説明すると、これら2つは測定方法も取引価格も異なるとグレイ氏は述べた。
自社の温室効果ガス削減のためにカーボンオフセットプロジェクトを検証する際、企業にとってはソリューションのベースにブロックチェーンが使われているかどうかは無関係で、プロジェクトが信頼でき、移転可能なことを確認したいだけとグレイ氏は述べる。
「炭素クレジットのバイヤーがプロジェクトの詳細を確認し、炭素クレジットの由来と価値を確認できるよう、我々はプロジェクトを定義づけできるようにしなければならない」
翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Nicolai Dürbaum/Unsplash
原文:Carbon Credits Have a Double-Spend Problem. This Microsoft-Backed Project Is Trying to Fix It