グーグル、アマゾンのクラウドに依存する中国の国家プロジェクト「BSN」──米中緊張で開発への影響は

要点

■中国は国家ブロックチェーン「ブロックチェーン・サービス・ネットワーク(BSN:Blockchain Service Network)」のグローバル展開を開始する。

■BSNはアメリカ大手IT企業のクラウドサービスを使用しており、米中関係が悪化することでその開発環境への影響が懸念される。

■他のテクノロジー分野における中国政府や企業による取り組みは、すでにアメリカ政府の抵抗に直面している。

米巨大IT企業のクラウドサービスに依存

中国の国家ブロックチェーンインフラ「BSN」は、Dapp(分散型アプリ)に対応する支配的な基盤になることを目指している。その先行者利益はきわめて大きいが、米中関係の悪化による影響が懸念される。

米中間の緊張が高まるなか、BSNはグローバルに拡大しようとしている。中国の国家的ブロックチェーンプロジェクトが、アメリカの巨大IT企業によって支えられていることを認識している人は多くないだろう。

AWS(アマゾンウェブサービス)、マイクロソフト、グーグルは、BSNの国外データセンター向けにクラウドサービスを提供している。中国のテクノロジーに対するアメリカ政府の強硬姿勢を考えると、注目に値する国家プロジェクトだ。

TikTok、ファーウェイ……

トランプ政権は中国生まれの人気アプリ「TikTok」の禁止を検討する一方、米議会は中国の大手通信企業ファーウェイ(Huawei)の排除を目的とした地方の通信事業者向けの10億ドル(約1050億円)の支援を承認した。また、米商務省はファーウェイに対して半導体企業がチップを提供することを制限した。

7月29日の米下院反トラスト小委員会の公聴会で、Facebookのマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)CEOは中国とアメリカのテクノロジー競争を「ゼロサムゲーム」と表現した。ザッカーバーグCEOによると、「中国はきわめて異なるアイデアに重点を置いた独自のインターネットを開発しており、それを他国に輸出している」。

こうした緊迫した環境は、BSNに問題をもたらす可能性がある。

「中国はブロックチェーンにおいてリードを奪い、この分野を支配しようとしているが、それによってBSNは米中のテクノロジー競争の中心的課題になる可能性がある」とコンサルティング会社、ユーラシア・グループ(Eurasia Group)のポール・トリオロ(Paul Triolo)氏は話す。「アメリカ政府はそう認識するだろう」

米中間のテクノロジー競争は数十年続いているが、その焦点は検索エンジンやソーシャルメディアから、ファーウェイが提供する情報通信機器のような根本的なレベルのテクノロジーにシフトしているとトリオロ氏は指摘する。

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米中の緊張関係

アメリカがヒューストンにある中国総領事館を閉鎖したことへの報復として、中国は四川省成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖、米中間の緊張は最高潮に達した。マイク・ポンペオ国務長官は最近のスピーチで、中国に対するアメリカの「関与政策」は失敗だったと述べた。

アメリカで新大統領が誕生したとしても、近い将来、この緊張関係が落ち着くかどうかは不透明だ。

「アメリカに新政権が誕生したとしても、例えば、前副大統領で民主党の大統領候補のバイデン氏のもとでも、テクノロジーの面では中国に対する厳しい監視は続くだろう」(トリオロ氏)

国家安全保障上のリスクをもたらさないテクノジーが、政治のために禁止される現実的なリスクは存在すると、シンクタンク、ニュー・アメリカ(New America)のグラハム・ウェブスター(Graham Webster)氏は話す。

米CoinDeskはアマゾン、グーグル、マイクロソフトにコメントを求めたが、当記事執筆時点でまだ返答はない。

トランプ政権による封じ込め

中国のテック企業がグローバルサービスを開発、拡大させることを制限する一つの方法は、彼らのサプライヤーにつながりを断つよう圧力をかけることだ。

アメリカは、ファーウェイの主要サプライヤーである台湾積体電路製造(TSMC)に対して、ファーウェイ向けに製品を製造するなら、チップ製造にアメリカ製の技術やソフトウエアを使用することを禁じた。ファーウェイはこの動きを「悪意ある決定」と非難した。

海外のデータセンターとして主にアメリカ企業が使われていることを考えると、BSNも同様の状況に陥る可能性がある。

BSNは自らデータセンターを構築、保有していない。中国国内にあるデータセンターの90%は大手通信企業の中国移動通信(China Mobile)が提供している。また、AWSの世界的な事業展開を考えると、海外のデータセンターのほとんどはAWSによって提供されることになるだろう。

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東京ではグーグル・クラウドを使用

BSNはサーバーの利用とソフトウエア導入に対して、これらのクラウドサービス提供事業者に対して料金を支払う。

BSNは中国国内にはAWSを使ったデータセンターを2つ配置し、海外のデータセンターにはマイクロソフトとグーグルのクラウドサービスも利用している。

具体的には、東京にグーグル・クラウド、ヨナネスブルグにマイクロソフトのサービス、パリとカリフォルニアにはアマゾンのAWSを使ったデータセンターを配置している。

Dapp(分散型アプリ)の開発者は、物理的に近い場所にあるデータセンターを使う方が、BSNのサービスにより素早く、簡単にアクセスできる。グローバルなブロックチェーンコミュニティ向けにインターネットサービスを提供する際、海外データセンターが非常に重要となるわけだ。

「スプリンターネット」に向かう世界

「私が中国企業なら、アメリカにある継続的なサービスに大きく依存するシステムを構築することには慎重になるだろう。BSNのグローバルバージョンを利用したい人は皆、アメリカにあるデータセンターが地政学的リスクを理由にネットワークから排除されるリスクを考慮すべき」(ウェブスター氏)

中国テック企業のグローバルな展開を抑えようとする動機の一つは、データセキュリティーに関する懸念だ。

ブロックチェーンテクノロジーは明らかに、構造的にきわめて高いレベルのセキュリティーと整合性を提供する。データのローカリゼーションとクラウドサービスをめぐる争いは、続いていると、ワシントンD.C.に拠点を置く防衛・情報企業、SOSインターナショナルのジェームズ・ムルヴェノン(James Mulvenon)氏は述べた。

「世界は明らかに、国境と国内の規制が過去の『テクノ・グローバリズム』を覆し、『スプリンターネット』(分断されたインターネット)に向かっている」

同氏によると、アメリカのクラウドサービス事業者は幅広い顧客にサービスを提供しており、中国企業にサービスの利用を許可した場合、具体的にどのようなサイバーセキュリティー上の懸念が生じるかを語ることは困難だ。

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問題の表面化はこれからか

今のところ、BSNのグローバル展開はアメリカの規制当局からの抵抗に直面していない。それはおそらく、BSNが比較的新しいものだからだろう。もしくは、その意味を理解できる議員は少ないからかもしれない。

「BSNが5GやAI(人工知能)のような他の新興テクノロジーのようにアメリカの議員からの抵抗に直面していない理由の一部は、ブロックチェーンテクノロジーがあまり理解されていないからではないだろうか」(ユーラシア・グループのトリオロ氏)

アメリカ政府は中国のクラウドサービス企業がアメリカで事業を行うことを制限しようとしているが、中国と接続されたアプリケーションをホスティングするアメリカ企業の問題にはまだ対処していない。

2019年5月、連邦通信委員会(FCC)は中国移動通信のアメリカ国内でのサービス申請を拒否した。

このことは、アメリカでクラウドサービスを利用したネットワークを構築しようとしている中国企業は、地政学的リスクを認識する必要があることを意味している可能性があると、SOSインターナショナルのムルヴェノン氏は言う。

「私なら、この種の国境を超えたクラウドネットワークへの大きな投資には慎重になる。なぜなら規制当局は今、こうしたネットワークを快く思っていないようだ」(ムルヴェノン氏)

ユーザーデータへのアクセス

事態を懸念している議員は、中国政府が海外にあるBSNノードのデータを要求したとしても、入手できない可能性があるという事実に安心するかもしれない。

中国政府は、治外法権に関してきわめて拡大解釈しているとムルヴェノン氏は指摘した。「中国政府は間違いなく、海外で事業を行う中国企業は(海外で登記されているとしても)中国の法の支配下にあると考えている」

理論的には、中国政府はBSNがどこで運用されているかにかかわらず、BSNの運営に携わる中国企業に対してデータを要求することができる。つまり、海外のデータセンターに保存されているデータも要求することができる。

しかしBSNのテクニカルフレームワーを構築したテック企業のRed Dateは、BSNはその技術的な構造のために、ユーザーデータにはアクセスできないと主張している。

Red Dateのイファン・ヘ(Yifan He)CEOは以前、BSNのテクニカルフレームワーはユーザーのデータプライバシーを完全に保護し、データセンターと開発者をより良くつなぐアダプターのように機能するとCoinDeskに語った。ヘCEOは懐疑的な人たちを招待し、ネットワークのコードをチェックさせた。

中国政府とのつながり

BSN開発協会(BSN Development Association)は、中国の経済政策を担う最高機関である国家発展改革委員会(NDRC:National Development and Reform Commission)傘下の国家情報センター(SIC:State Information Center)が主導している。国営の大手テック企業、中国移動通信や中国銀聯も開発に深く関わっている。

政府機関が大規模なブロックチェーンインフラのための取り組みを認可・主導し、中国最大級のテック企業2社にサポートさせることはきわめて珍しい。しかし、デジタル人民元とは異なり、中国人民銀行や中国工業情報化部(MIIT)といった高レベルの政府機関は今のところ、BSNに関与していないようだ。

中国政府とBSNの正確な関係は不明確だが、BSNが国家とつながっていることを考えると、米大手クラウドサービス事業者への依存は、中国側でも議論となる可能性がある。

「BSNの指導委員会には外国企業は一切存在しない。公式文書にあるように、中国政府はBSNが『中国の組織によって自律的に革新されるグローバルなインフラネットワーク』になることを意図している」とユーラシア・グループの5月のレポートには記されている。

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翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Shutterstock 
原文:China Aims to Be the World’s Dominant Blockchain Power – With Help From Google, Amazon and Microsoft