フォビ VS オーケーエックス──中国で続く覇権争い、次の戦場は先物市場か

中国系経営陣が率いる暗号資産取引所のフォビ(Huobi)とオーケーエックス(OKEx)。これまで長きにわたりライバル関係を築いてきたが、その競争はビットコインの先物やデリバティブ市場で激しくなりそうだ。

データサイトのCoinGeckoによると、オーケーエックスは世界最大規模の暗号資産デリバティブ取引所で、契約残高は12億6000万ドル(約1340憶円)にのぼる。一方、フォビ(Huobi)の契約残高は12億5000万ドル(約1320憶円)で、ビットメックス(BitMEX)とともに僅差で2位につけている。

フォビは8月のレポートで「先物の取引高については、他の大手取引所に対する境界線を押し広げることができた」と述べている。レポートによるとフォビは、いくつかの分野ですでにオーケーエックスを上回った。

週ベースと四半期ベースのビットコイン先物取引においてもオーケーエックスを上回っているとアピールする。

ビットコイン先物の建玉
ビットコイン先物の建玉
出典:Skew

「2018年12月にフォビが先物契約を開始するまでは、オーケーエックスが世界最大の市場シェアを持っていた。フォビの先物は常に市場のベストを見据えている」と同社グローバル・マーケット担当バイスプレジデントのシアラ・サン氏は話す。

激化する対立

暗号資産先物、さらには中国での覇権争いは、この2つの取引所の間にさらなる緊張をもたらしている。2社は少なくとも2018年以来、オーケーエックスの当時のCEO、クリス・リー氏が同社を離れ、フォビのグローバル・ビジネス開発担当バイスプレジデントになった時から対立している。

オーケーエックスのジェイ・ハオCEOは3月、フォビを「当社のドッペルゲンガー」と呼び、「模倣はお世辞の最も真摯な形態」と発言した。そして「フォビは当社を真似ることで、市場のボラティリティ(価格変動)に耐えることができたと思いたい」と続けた。

また、ハオ氏はこれまでCoinDeskの取材でこう述べている。

「オーケーエックスでは、パフォーマンスを競合他社と比較、評価することはめったにない。(なぜなら競争は簡単には)データや特定の指標で定義できない」

巨大な中国の暗号資産市場

中国の暗号資産市場の専門家は、2つの取引所のライバル関係は、世界第2位の経済大国における顧客獲得競争によるものだろうと述べた。

「オーケーエックスとフォビの間の摩擦は、起こるべくして起きている。両社は国際的な取り組みを推進する一方で、今でも中国のユーザーを優先している」と北京の暗号資産コンサルタント会社、シノ・グローバル・キャピタル(Sino Global Capital)のマシュー・グラハムCEOは言う。

中国はブロックチェーンで世界のリーダーになろうとしている。技術面での覇権をめぐって、中国とアメリカの間で冷戦が生まれつつあるなか、一部の観測筋は中国は注目の場所になる可能性があるという。

中国の銀行はすでにデジタル人民元のテストを実施しているが、アメリカはまだデジタルドルを研究している段階だ。

盛んな相対取引

現在の規制のもとでは、中国の取引所は厳密には暗号資産を販売することはできず、当局の取り締まりも行われている。

しかし、チェイナリシス(Chainalysis)が8月20日に発表したレポートによると、多くの人々がOTC(相対取引)業者からビットコイン(BTC)、あるいはテザー(USDT)のようなドル連動型ステーブルコインを購入し、取引に使っている。

レポートでは、東アジアは世界最大の暗号資産市場と呼ばれ、過去12カ月の取引高の31%を占めていた。

東アジアの暗号資産取引高・取引数のシェア
東アジアの暗号資産取引高・取引数のシェア
出典:Chainalysis

「例えば、テザー(USDT)を法定通貨の代わりに使うと、トレーダーは単純に暗号資産をテザーに交換し、ウォレットあるいは取引所の口座に置いておくことで、法定通貨に変えることなく利益を確定できる」(チェイナリシスのレポートより)

グラハム氏によると、2つの取引所の間の摩擦は、中国政府と友好な関係を築こうとする政治的な動きにおいても衝突する。

この点については、フォビがオーケーエックスを一歩リードしているかもしれない。フォビ・チャイナは、中国が世界のインフラを目指して進めている「BSN(ブロックチェーン・サービス・ネットワーク)」の開発アライアンスに参加している。

「暗号資産に特化した2つの取引所が両方とも生き残れる余地はあるだろうか?」とグラハム氏。「ポジションが1つしかないのであれば、それはオーケーエックスもフォビも熱望しているものだ」

公式にはフォビは中国の暗号資産市場の存在を認めていない。「中国に市場はない。合法ではない」とバイスプレジデントのサン氏は話す。

サイト訪問者数のデータを見ると、フォビのサイトへの訪問者の3分の1近くは中国からのようだ。一方、オーケーエックスは14%となっている。

Huobi.comの国別のトラフィック
Huobi.comの国別のトラフィック
出典:SimilarWeb

「残念ながら中国で行われている取引の正確な量はわからない。だが、中国政府が何かを発表した時、ビットコイン相場が動く」と韓国のブロックチェーンデーターサイト、クリプトクアント(CryptQuant)のキ・ヨン・ジュCEOはコメントする。

フォビの主張

冒頭で述べたように、フォビとオーケーエックスの中国市場をめぐる競争は今、先物取引市場へとそのバトルフィールドが変わろうとしている。

「フォビは先物の取引高については、他の大手取引所に対する境界線を押し広げることができた」と8月14日に発表したレポートで述べた。

またフォビは、建玉(未決済の契約総数)で判断する「市場の厚み」でもオーケーエックスを上回っていると主張する。

フォビとオーケーエックスの取引高と建玉
フォビとオーケーエックスの取引高と建玉
出典:CoinGecko and Shuai Hao for CoinDesk Research

さらにフォビ・フューチャーズ(Huobi Futures)のトム・ワンCOOは、先物と似た仕組みだが満期のない永久スワップの新商品の発売も、第2四半期の成長に貢献したと述べた。

「フォビの永久スワップの24時間の取引高は、53億7000万ドル(約5650憶円)、2020年5月12日のビットメックス(BitMEX)の52億2000万ドル(約5500憶円)を上回っている。この商品については、当社に比べてオーケーエックスの競争力はまだ弱い」

健全な競争

2つの取引所の争いから、顧客は少なくとも1つ、メリットを手にしている。「より多くの選択肢」だ。

フォビは7月、ビットコインのオプション取引を第3四半期に開始すると発表。一方のオーケーエックスは、オプション取引に1日、2日、1カ月の3つの満期を追加したと発表した。

「健全な競争と理解している」とオーケーエックスの金融市場ディレクター、レニックス・ライ(Lennix Lai)氏はCoinDeskに述べた。

暗号資産投資ファンド、プリミティブ・ベンチャーズ(Primitive Ventures)のドベイ・ワン氏は、この小競り合いは国内市場でシェア争いを行った中国のハイテク大手を思い出させると話す。

「アリババ(Alibaba)やテンセント(Tencent)が決してグーグル(Google)やフェイスブック(Facebook)と争わないようなもの。でも、中国では激しく戦う」

翻訳:石田麻衣子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Ryan McGuire/Pixabay
原文:Huobi and OKEx Battle for Supremacy in China