【暗号資産の相続】何をすべきか?手続きの流れは?受け取るのは円?BTC? よくある5つの疑問──ビットフライヤーに取材

あなたの家族がビットコインに投資をしているとして、その投資家にもしものことがあったら、どのような手続きをすればいいのか、お分かりだろうか?

まだ暗号資産投資はまだ歴史が浅く、あまり注目されていないが、今後は「暗号資産(仮想通貨)の相続」の件数は増えるはず。知識を持っておく必要性が高まるのは間違いない。

そこで暗号資産取引所の国内最大手で、既に6年以上、取引所を運営しているbitFlyerの斉藤広志氏(執行役員・オペレーション本部長)に、相続について聞いた。相続人から寄せられる質問や取引所が行っているアドバイスをもとに、暗号資産投資家や家族がよく持ちそうな疑問として5つまとめてみた。

疑問1 暗号資産取引所に口座をもった投資家が亡くなった。遺族がすべき手続きは?

【回答】まず取引所の問い合わせフォームから相続の旨を連絡する。手続きは一般的な金融資産の相続とほとんど同じ。

【解説】斉藤氏によると、bitFlyerは問い合わせフォームか電話で投資家の死亡の旨を伝えればよいという。その後、必要書類や手続きの流れについて、担当者からメールか電話で連絡がある。

bitFlyer, 相続,遺産
bitFlyerのWebサイト、お問合せページに「相続手続きについて」という項目がある
bitFlyer, 相続,遺産
「相続手続きについて」の問合せ入力画面

暗号資産の相続手続きは預貯金や株式、投資信託とほぼ同じ流れだ。取引所が、亡くなったのが口座を保有する本人であることを確認したら、亡くなった人の口座はすぐに凍結される。その後、相続に必要な書類の案内が相続人に対して行われる。

疑問2 暗号資産取引所にはどんな書類を出す必要があるのか?

【回答】暗号資産だからといって特別ではない。銀行や証券会社での相続手続きと同じ書類が必要。

【解説】この他、相続人の代表者の預貯金口座の情報も必要になる。たとえばこういうものだ。

・ 法定相続情報証明
・ 遺産分割協議書(相続人全員の実印が押してあるもの)
・ 相続人全員分の印鑑証明書
・ 相続人代表者に支払う旨の同意書(相続人全員分)

ただし、bitFlyerを含め暗号資産取引所には銀行や証券のようなリアル店舗がない。やり取りが電話かメールのみになる点は留意しておこう。

疑問3 相続人が受け取るのは暗号資産?それとも日本円?

【回答】相続は暗号資産だが、相続人には日本円で支払われる。なお、口座の持ち主死亡時点での残高証明書も発行される。

【解説】相続人が相続するのは暗号資産そのものだが、支払われるのは日本円だ。相続人が亡くなった人と同じ取引所内に取引口座を持っていたとしても、現物のままではなく日本円で支払われることになる。

bitFlyerでは残高証明書が発行されるのは、疑問2で挙げた書類がすべて取引所に提出された段階だという。いつ時点の残高かというと、相続開始時点。つまり投資家本人が亡くなった日だ。残高証明書に記載されているのは、保有している暗号資産の種類と単位ごとの保有高。bitFlyerの場合は日本円相当額は書かれていないという。

ただ実際には、相続人から問い合わせフォームの中でざっくりとした暗号資産の換算額を聞かれることが多いらしい。斉藤氏は「残高証明には書いていませんが、問い合わせがあればその時の金額でお答えするようにしています。目安となる金額が分かると、相続人の方も不安が軽くなるようです」と話す。

疑問4 遺族・相続人がいない投資家が亡くなったら、暗号資産はどうなるのか?

【回答】一定期間以上取引がないと、最終的には国庫に返納される

【解説】預貯金は10年以上取引がないと最終的には休眠口座として扱われ、国庫に収用されるが、暗号資産も同様の扱いになると見られている。相続人がいない投資家が亡くなって10年放置されると、最終的には国が収用することになる。

ただ、暗号資産取引所が事業を開始して7年程度しか経過していないので、まだそのような実例が生じていないのが現実だ。斉藤氏は「業界としてのルールはまだありませんが、今後は証券同様、国庫返納が基本になるのではないでしょうか。あと数年したら、そうした事例が出てくる可能性はあるでしょうね」と指摘する。

疑問5 自分の死後の相続に備えて何をしておいたらよいか?

【回答】暗号資産取引所に暗号資産があることを日頃から伝えておくこと。

【解説】暗号資産が相続漏れにならないようにするには、取引の事実と取引所名を日頃から家族に情報共有しておくとよいだろう。「〇〇という取引所にビットコインを持っている」と言っておくだけでも、残された家族は助かるはずだ。

また、海外の取引所で取引している人やハードウェアウォレットで暗号資産を保管している人は、国内の取引所1ヵ所にまとめておくと、こと相続対策という点ではよいかもしれない。

斉藤氏「bitFlyerでは手続きの流れを丁寧に説明するので安心してほしい」

暗号資産の相続手続きは他の金融資産とほぼ同じだ。相続リスクを減らすためといってIDやパスワードを無理に知ろうとするのではなく、普段の会話で状況を伝えあっておくとよいだろう。bitFlyerの斉藤氏も「ビットフライヤーのお客様では、相続の案件が年間100件程度生じています。手続きの流れ、社内の取り扱いのフローも厳密に決まっていますし、お問い合わせいただければ、手続きは丁寧にご案内するので安心してほしい」と呼び掛ける。

暗号資産取引が日本で始まってまだ10年ほどだし、株式や外国為替の投資と比べると投資家も多くはない。こうした状況のためか、「暗号資産の相続」が注目されること、メディアで記事になることはあまりない。

しかし、残念ながら相続はいつか発生するものだ。自分が投資家なら、残された家族・遺族のことを考えて準備しておきたい。たとえ投資家本人が、暗号資産投資や取引所、ウオレットの仕組みについて知っていても、多くの人にとって暗号資産投資は「よく分からないもの」なのだ。家族はきっと詳しく知らないはずだ。

もし家族が暗号資産投資をしているからといって、いきなり相続について切り出すのは難しいだろうし、その必要はない。まず一度ビットコインについて話題にするところから始めてはどうだろうか。

文:鈴木まゆ子
編集:濱田 優
画像:goodluz, Sergei Telenkov / Shutterstock.com

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