ナスダックに上場しているマイクロストラテジー(MicroStrategy)は、少なくとも100年にわたりビットコインを保有するという。同社創業者兼CEOのマイケル・セイラー氏が15日、CoinDeskのインタビューで語った。
このインタビューの直前、セイラー氏はツイッターで、ビットコインへの投資を強化し、さらに1億7500万ドル(約184億円)を追加購入すると述べている。同社のビットコイン購入額は、これで4億2500万ドル(約447億円)となった。
「4億2500万ドルを100年間、注ぎ込めるような何かが欲しい」とセイラー氏は言う。
2カ月で約450億円をビットコインに
セイラー氏はこの2カ月間で自社の余剰資産の4億ドル相当をビットコインに変えた。セイラー氏は「デジタルゴールド」は自分のCEO在籍期間よりも確実に長続きすると考えている。
「(私の後継者が)これを見た時にも、保有していて良かったと思うだろう」とセイラー氏。
「これ」とは3万8250ものビットコインのことだ。ナスダック上場企業である同社は、株主に対して5億ドルの余剰資産を現金で保有することはもはや安全ではないと述べた後、8月11日に2億5000万ドル(約263億円)のビットコインを購入。そして9月15日朝、さらに1億7500万ドル相当を追加購入した。
バランスシートの黒字分をインフレによって価値が下がる傾向にある現金、利回りの悪い債券、あるいは上がりすぎたテック関連株で保有することは忘れるべきだと、セイラー氏は語気を強める。
いまのような市場、そして彼が確信している未来において、余剰資金を機能させるための最適な手段は2つしかない。すなわち、株の買い戻しとビットコインだ。
7年前にビットコインは長くは続かないと主張した同氏にとっては根本的な方針転換だ。何が同氏を変えたのか?
思いがけないきっかけ
コロナ禍の間に「不思議な体験をした」とセイラー氏は言う。600ドル台だった頃にビットコインを疑っていたことは「間違いだった」と認めた。
「今知っていることを、当時知っていたかった」
同氏の方針転換の最初のきっかけは思いがけないものだ。2019年7月、ドメイン名「Voice.com」が3000万ドル(約32億円)で暗号資産イオス(EOS)の開発企業ブロックワン(Block.one)に売却されたことが同氏を驚かせた(6月、ブロックワンはソーシャルメディア「Voice」を発表した)。
2020年になるとセイラー氏はビットコインの情報を精力的に集めた。ビットコインの世界の著名人が書いたエッセイを読み、暗号資産のポッドキャストを聞き、ビットコイン懐疑派と推進派の議論をインターネットで探し回った。
新型コロナウイルスの影響
新型コロナウイルスが世界のビジネスに及ぼした災難は実際、同社には恩恵となった。セイラー氏によると、リモートワークなど業務のオンライン化が進むなか、同社はすぐに、運営に必要な額よりもかなり多くの現金を保有していることに気づいたという。
ドルから離れていくことが今、セイラー氏の主要な関心事となっている。インフレリスクには我慢できないとセイラー氏は語った。
セイラー氏と同社の経営陣は、無限の量的緩和という時代に備えた明らかな選択肢はビットコインと結論づけた。
幹部たちには「宿題を出し始めた」とセイラー氏。経営幹部のビットコインに対する理解を促進するためのさまざまな学習機会を設けた。マイクロストラテジーが本当に数億ドルをビットコインに投資するのであれば、全員が納得していなければならなかった。
ビットコイン購入の経緯
片付けるべき問題は山積みだった。しかし3カ月間、セイラー氏と幹部たちは暗号資産について学び、上場企業が暗号資産に投資する際のハードルとなる法律、保管、セキュリティー関連の数多くの問題に取り組んだ。
そして7月下旬、第2四半期の決算報告で戦略を発表した。すなわち、マイクロストラテジーは今後12カ月で最大2億5000万ドルを「1つ、あるいは複数の代替投資先、あるいは株式、債券、ゴールド、ビットコインなどのデジタル資産を含むコモディティ」に投資していくことを目指すとフォン・リーCFOは7月28日に述べた。
この発言は企業特有の曖昧な表現だったため、誰も関心を払わなかった。
1週間後、キャッスル・アイランド・ベンチャーズ(Castle Island Ventures)のマット・ウォルシュ氏が、この決算報告の内容をツイートで取り上げた。同氏は、ナスダック上場企業が「保有する現金をビットコインを含めて多様化させている」と指摘した。
ウォルシュ氏は「目」の絵文字を添えた。要注目という意味だ。
「熟考を重ねた企業戦略」
そのわずか6日後、マイクロストラテジーは2億5000万ドルの余剰資金をビットコインに投資した。12カ月という当初の計画と、ゴールドや他の代替資産に分散させるという発言はどこかへ吹き飛んだ。一度にすべて、ビットコインに投資した。
9月、取締役会はビットコインを同社資産の主要な保有先とし、SEC(証券取引委員会)への提出書類で、さらに買い増しする可能性があることを示唆した。
そしてそのわずか数時間後に、自ら設定した2億5000万ドルという上限を打ち壊した。
当記事執筆時点で、同社は4億2500ドルをビットコインに変えた。同社の株価は8月11日、最初にビットコインを購入して以来、30%上昇している。15日には9%上昇した。
アップルやグーグルなど、他のテック系上場企業は、何十億ドルもの現金をそのまま何年も保有している。しかしセイラー氏は、マイクロストラテジーが保有する数億ドルを、インフレの悪影響によって徐々に減っていく可能性のある場所、つまり銀行口座にそのまま置いておきたくなかった。
「当社は、溶けていく5億ドルの氷の上に座っているという恐ろしい現実に気づいただけ」とセイラー氏は話す。「これは投機でもなければ、リスクヘッジでもない。ビットコインを標準として採用するという、熟考を重ねた企業戦略だ」
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:マイクロストラテジーのマイケル・セイラーCEO(Charles Norfleet/Getty Images)
原文:Bitcoin CEO: MicroStrategy’s Michael Saylor Explains His $425M Bet on BTC