肌の露出度が高いセルフィー(自撮り写真)を使ったGIF画像がノン・ファンジブル・トークン(NFT)市場で飛ぶように売れている。だが皆がこの状況を快く思っているわけではない。
ブロケード・ゲームズ(Blockade Games)の共同創業者、マルグリット・デクールセル(Marguerite deCourcelle)は、この夏、NFTの盛り上がりが本格化する前に、16万ドル(約1670万円)以上のNFTを販売した。彼女はサイファーパンクな自分の写真のNFT化し、来年、さらに多くの「パーソナルトークン」を模索していくつもりと9月初旬に語った。
「1カ月で約2万ドル稼いだ。ビジネスモデルの一つとして、パーソナルNFTの販売に重点を置いているわけではない」
彼女は自分のポートレート写真を使って宣伝を行ったが、予想通り、ソーシャルメディア上で荒らし行為や嫌がらせを受けた。なかには、こうしたモデルたちは信用できないと述べ、詐欺罪で告訴されている美女コンテストの女王のジェシカ・フェルステーフ(Jessica VerSteeg)に喩えた。しかしデクールセルは怯まなかった。
SNSでの嫌がらせ
「パーソナルトークンと私を見たビットコイナーたちは『美貌を使って』詐欺まがいの代物を売っていると怒っている。私の支持者やファンのほとんどは、私が表舞台に立っていることを喜んでいる。私がより魅力的になり、多くの人を惹きつけようと努力するなかで、この取り組みはさらなる透明性をもたらす」
彼女によると、アンチの人たちは、あたかも彼女には両立できないかのように、モデル兼インフルエンサーか、開発者兼デザイナーのどちらかを選ぶべきだと主張するという。さまざまなタイプのインフルエンサー同様、暗号資産(仮想通貨)インフルエンサーはしばしば、ファッション雑誌やショーではなく、ソーシャルメディアで自分の姿をモデルのように使う。
例えば、「クリプトファイナリー」ことレイチェル・シーゲル(Rachel “CryptoFinally” Siegel)は9月、NFTマーケットプレイスのRaribleを使ってさまざまなアーティストとコラボし、彼女のセルフィーを題材にした数十のNFT作品を発表した。
そのうちの1つは1イーサリアム(約4万2000円)で購入され、「I’m in it for the money(お金のためにやっている)」というタイトルがついたランジェリー姿の写真のNFTは3614ドル(約38万円)相当の値が付けられていると彼女は語った。
Love her or hate her, can’t deny @CryptoFinally brought a ton of exposure to #Rari as she broke into the scene about a week ago.
— fiends.world (@FiendsWorld) September 30, 2020
She now has her own Token.Waifu 🤯
10/10 fiendsworld x CryptoFinally collab as part of the “Token.Waifus” collection.https://t.co/NiQtya0dX4 pic.twitter.com/wJq3aV0Rjd
シーゲルは売り上げをまだ換金していないと述べた。売り上げは新しいNFTを発行したり、他のアーティストからコレクション用の作品を買ったり、他の支払いのために使っている。彼女のNFTの多くは単純なセルフィーではなく、複雑なイメージになっており、そのすべては彼女の全体的な雰囲気や容姿を使っている。
NFTの新しいユーザー
「セルフィーは(NFT市場に)参入し始めている新しい層を象徴している」とシーゲルは述べた。
暗号資産に詳しい女性のなかには今、自分の外見やイメージから利益を得るためにNFTを使っている人もいる。クリエーターを応援するためにお金を使っていると考えているファンにNFTを売っている。セックスワーカーがお風呂の水や靴下を売り、ポッドキャストの司会者がステッカーを販売できるなら、なぜ暗号資産インフルエンサーがNFTを売ることは批判されるのだろうか?
そうした女性たちを自意識過剰と呼び、業界に害を及ぼしていると批判するアンチに対して、シーゲルは次のようにツイートした。
「もし私のセルフィーだけで暗号資産を破壊する力を持っているなら、正直に言ってそんなものはなくなってしまえばいい」
ジェンダーが存在する市場
NFT市場に芸術的表現の新たなルートを見つけている女性もいれば、他人に自分の写真を使われて困惑している女性もいる。
例えば、Ashtoshiという名前で活動しているウェブディベロッパー兼画家の女性は、彼女のビキニ姿のセルフィーが彼女の同意なくRaribleに1051ドル(約11万円)相当で出品されたと語った。
入手方法次第では、流用された彼女の画像から他人が利益を得ることは違法の可能性があるが、彼女自身は自分の芸術作品を販売するためにRaribleからのサポートを得ることに苦戦した。彼女は、セルフィーNFTは馬鹿げていると考える批判者の1人だ。
「もちろん、私の写真はツイッターで公開されていたが、それを流用して『胸に誰かの名前を書きます』という約束などとともに売ろうというのは少し気味が悪い。私は自分のアート作品を投稿した日にRaribleで認証を受けようとしていたので残念だった。認証はされなかった」
限られる法的手段
暗号資産コミュニティの女性たちは、他人が彼女たちの性から利益を得ようとすることに対する対抗手段を持たない。いたちごっこのような戦いのために、(限られた)法的選択肢しか存在しない。これは昔からよくある話だ。主に男性が支配する分野では、受け身的な女神としてではなく、アーティストやオーナーとして自らが主体的に利益を得ている女性はが貶められている。Ashtoshiはこうした動向にがっかりしていると語った。
「Raribleにはもう何も投稿しないし、何の目的にも利用しない。NFTというアイデアはとても魅力的だが、自分が購入しているものが本物の芸術作品であることを保証する何らかの認証手段が間違いなく必要だ」
皮肉なことに、NFTはアーティスト(あるいは取引プラットフォーム)が個人ブランドを守るために法的手段に訴えた時のみ、真正性を証明する。
女性はツイッターから流用されたセルフィーのせいで、尻軽などと批判されるのに、誰も、男性インフルエンサーがセルフィーを流用されることは「当然」などとは言わない。セルフィーNFTは、自己主権、特に女性の身体に関する自己主権に対する批判を対抗するための、フェミニスト暗号資産ファンによる広範な運動の一部などという人もいるかもしれない。
NFTは戦う手段
キティ・バスト(Kitty Bast)、カミル・ジュアレグイ(Kamil Juaregui)、キャロライン・ダイ(Caroline Dy)をはじめとする暗号資産に詳しいアーティストたちは、刺激的なポートレートとデジタルアートの境界を曖昧にしている。
Ashtoshiは、騒ぎを避けるために、作品のNFTを匿名で投稿すれば良かったと述べた。(イーサリアムの生みの親ヴィタリック・ブテリンの名を借りた)ButerinSistersと呼ばれるチームのように、論争を招くために匿名性を利用するアーティストもいる。
彼らは女性器画像のNFTを作り、画像は約54ドルで複数のコレクターによって取引された。ButerinSistersは、このNFTを宣伝することで業界にいる他のフェミニストと出会うことができ、同様に男性を楽しく教育できることを望んでいると語った。
「私たちはフェミニストで、Raribleのプラットフォームを見つけた時に、男性によって男性のために作られた作品がほとんどであることに気づいた。女性的な作品を見せることは面白いのではないかと感じた。私たちはWeb3.0テクノロジーを(家父長制度との)戦いのため、そして検閲されない分散型インフラを使ってフェミニスト的な象徴を構築するために使いたいと考えている。(中略)身体は政治的なものだ」
(敬称略)
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:「クリプトファイナリー」ことレイチェル・シーゲル(CryptoFinally and Ferris Bullish)
原文:Thirst Traps Explode on NFT Platforms, With Predictably Controversial Results