LINEのトークンエコノミーが始動した──8400万人をどう動かす【LVC社長インタビュー】

8400万人のユーザーを持つLINEが「トークンエコノミー構想」を発表してから2年が経った。LINEが作り上げたブロックチェーンの上で、多くの企業がアプリを開発してモノとサービスをユーザーに届ける。

「LINK」と呼ばれるデジタルトークンは、このエコシステムを作り上げるために参加する人や企業を通じて流通する。LINKは他の資産に変換することができ、モノやサービスを購入する暗号資産としての機能を持つ。

今年8月、LINEは独自に開発したブロックチェーンの商業化を始めた。開発者向けのブロックチェーンプラットフォームをリリース。いよいよトークンエコノミーの形を作り始めていく。発表からわずか6日で100を超える企業から利用申請が届いたという。

スマートフォンの「LINE」をタップすれば、今では数千銘柄の株、FX、ビットコインの取引ができる。あらゆるサービスが一つのアプリで完結する「スーパーアプリ」を目指すLINEは、トークンエコノミーを広げてさらに多くのサービスを増やすことで、スーパーアプリを超えたアプリに進化しようとしている。

LINEのブロックチェーンと暗号資産事業を手がけるLVCの林仁奎(イム・インギュ)氏に、LVCの事業戦略を聞いた。

激変する国内クリプト市場の攻略法

「決して日本の暗号資産取引の市場規模は大きくはない。業界全体の課題、BITMAXの課題であると考えています」(林氏)

──暗号資産取引の国内市場は過去1~2年で成長の鈍化が見られる。一方、取引所を運営する企業同士の競争は激化している。LVCは取引所の「BITMAX」を通じてどう事業を拡大していくのか?

林氏:取引の統計データを見ると、国内市場の伸びはスローダウンしていますね。決して日本の暗号資産取引の市場規模は大きくはない。業界全体の課題、BITMAXの課題であると考えています。

新たにBITMAXで取引を始めようとする人たちの多くは、株式やFXの投資経験を持たない20代や30代の世代です。分かりやすいサービスを提供しなければ、市場全体の規模も増えてこないでしょうね。

まずは、LVC USAが運営する海外ユーザー向け取引所の「BITFRONT」で人気のサービスを、日本のユーザー向けのBITMAXで展開することを増やしていきたいと考えています。

一つ目は、ユーザーが持っているビットコインなどの暗号資産を取引所に貸し出して、手数料が取得できる、いわゆる「クリプトレンディング」です。

LINEは10月6日、LVCを通じて暗号資産の貸出しサービスを7日から開始すると発表。ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を持つユーザーが、BITMAXに貸し出し、銀行ローンにおける利息にあたる「貸借料」を取得するというもの。暗号資産の価格が変動した際は、貸出しを終了して持っている暗号資産を売却することも可能だ。

BITFRONTで人気のLINKステーキング

「ユーザーのベネフィット(利益)を徹底的に考えることは、LINEが一番大切にしていることです」

林氏:海外のBITFRONTではLINKのステーキングも人気のサービスの一つです。日本のユーザーにも紹介できるか、現在検討を始めています。

ユーザーのベネフィット(利益)を徹底的に考えることは、LINEが一番大切にしていることです。BITMAXを使う日本のユーザーにとっても、LINKのステーキングサービスは魅力のサービスになるのではと思います。

ステーキングは、LINKなどの暗号資産の基盤にあるブロックチェーンの成長や運営維持に貢献することで、報酬を暗号資産で受け取るというもの。例えば、LINKを保有する投資家は一定期間、そのLINKを動かせない状態にしておくだけで、報酬を受け取ることができる。

来年(2021年)の第1四半期には、日本のユーザーを驚かすことができる新しいサービスを始められるよう、いま準備を進めています。たぶん、国内の暗号資産取引業界では初となるサービスになるでしょう。

LINEのウォレットが主人公になる

「トークンエコノミーが拡大していく中で、ウォレットは重要な主人公になるだろうと思っています」(林氏)

──LINEが開発したブロックチェーンの一番のセールスポイントとは?LINEのスーパーアプリ化にどう貢献していくのか?

林氏:当然、LVCの事業もLINEのユーザーが基盤としてあります。多くの開発企業が簡単に使えて、処理速度にフォーカスしたブロックチェーンを作ろうと考えてきました。

我々のブロックチェーン開発プラットフォーム「LINE Blockchain Developers」を使えば、企業は安全でシンプルにLINEブロックチェーン上でアプリ(dApps=分散型アプリケーション)を開発することができます。8400万人のユーザーに向けたサービスを展開することが可能になるわけです。サービスを運営する際に、LINKをトークンとして使うこともできます。

これから開発される多くのサービスでLINKが使われるようになれば、LINEのトークンエコノミーは徐々に大きくなっていきます。

──「LINE Blockchain Developers」と同時に、デジタル資産ウォレットの「BITMAX Wallet」もリリースされた。

林氏:開発企業の多くのエンジニアと話をすると、トークンをいかに安全に管理できるかが、アプリ開発における大きな課題の一つだと聞きます。そこで、LVCが力を入れてきたのが「BITMAX Wallet」の開発でした。

トークンエコノミーが拡大していく中で、ウォレットは重要な主人公になるだろうと思っています。セキュリティ面で優れたウォレットがなければ、トークンエコノミーの中を流れるトークンの安全性を守ることはできないですよね。

LINKに限らず、グローバルのデジタルアセットを管理できるウォレットの存在は、きわめて重要になってくると思っています。

タイ、台湾…海外市場はどう狙う

タイ・バンコクの繁華街(Shutterstock)

──LINEのユーザーは台湾やタイなどにも多くいるが、LVCは今後の海外事業をどう考えているか?

林氏:まずは日本の市場だと考えています。これから1年くらいで、LINEブロックチェーンを使って開発を進めるdAppsはさらに増えていくでしょうし、BITMAXを通じた日本の暗号資産ユーザー向けのサービスをローンチしていきます。

国内事業を固めていけば、まったく日本と同じというわけではないですが、LINEユーザーの多いタイや台湾でも事業展開がしやすくなるでしょう。


林仁奎氏:大学卒業後、CJ Internet(現ネットマーブル)やNC Japanでゲーム関連事業戦略を担当し、NHN Japanで日本・グローバルマンガアプリ事業の執行役員、カカオジャパンでは動画配信事業を担当。2019年にLVCに入社、2020年7月からLVCの最高経営責任者を務める。44才。

インタビュー・文・構成:佐藤茂
写真:多田圭佑