ゴールド(金)価格は最高値から遠ざかっているが、ビットコインは最高値を狙える位置にある。数十億ドルもの資金がゴールドから流出する一方で、機関投資家の資金はビットコインに向かっている。
一部の暗号資産(仮想通貨)支持者のストーリーで、ウォール街からも聞かれるようになった主張は次のようなものだ:「投資家はついに事態を飲み込み、インフレに対する古いリスクヘッジであるゴールドから資金を引き上げ、未来の安全資産であるビットコインに投資している」
だが、別の見方もある。国際経済の明るい見通しによって、デジタル資産に投資するリスクは少し楽しいものになっているという見方だ。この解釈では、ビットコインはこの世の終わりに備えた取引ではなく、活況のサインだ。
ゴールドとの相関関係
ゴールドは年初から8.5%上昇しているが、それでも8月初旬に記録した史上最高値からは12%以上も下落。11月24日には1トロイオンスあたり1805ドルで取引を終えた。バンク・オブ・アメリカによると、数週間前には記録的な規模となる40億ドルがゴールド市場から流出した。一方、ビットコインは年初から160%以上、値を上げた。
JPモルガン・チェースは先週、レポート「Flow & Liquidity」の中で、投資信託「グレイスケール・ビットコイン・トラスト(Grayscale Bitcoin Trust)」の急成長について触れ、機関投資家のビットコインへの関心を示していると述べた。JPモルガンのレポートには以下のように書かれていた。
「過去5週間のグレイスケール・ビットコイン・トラストへの資金流入をより目覚しいものにしているのは、それに相当するゴールドETF(上場投資信託)からの流出との対比であり、ゴールドETFは10月中旬以降、緩やかな資金流出が続いている。
(中略)この対比は、ファミリーオフィスなど、以前はゴールドETFに投資していた一部の投資家が、ビットコインをゴールドに代わるものと見ている可能性があるという考え方を支えている。(中略)ビットコインの長期的上昇の可能性はかなり大きい。
しかし、ビットコインが『代替』資産としてゴールドと対等に競争し、ゴールドETFや金塊、金硬貨への民間投資額の2兆6000億ドルに並ぶためには、その時価総額340億ドルは約8倍に増加する必要がある」
ビットコイナーにとっては、このレポートは「Song of Angels」の歌詞のようだ。ビットコインはゴールドと競争でき、上昇の余地がたっぷりあるというアイデアを改めて肯定してくれる。
ヘッジファンドの大物、ポール・チューダー・ジョーンズ(Paul Tudor Jones)氏が5月にビットコインを70年代のゴールドにたとえたことや、世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)の債券担当CIOがビットコインは「ゴールドを大規模に置き換えることができる」と述べたように、これは多くのファンドマネージャーの発言を繰り返すものだ。
確かにビットコインは、24日に最高値を更新したS&P500よりもゴールドとの相関関係をより強く維持している。ビットコインとS&P500の90日相関係数は現在0.26。
一方、ゴールドとの相関係数は0.38となっている(相関係数が1の場合、2つの資産の価格は完全に横並びで推移する。マイナスの場合は逆方向に動く。0は、まったく関係がないことを意味する)。
代替資産ではなくリスクオン資産か
最近の市場の動きはかなり違うことを示しているようで、それはゴールドからデジタル資産への資金流入と関係があるようだ。
ゴールド価格は11月9日、ファイザーの新型コロナウイルスワクチン候補が95%の有効性を示したとの発表を受け、5%下落した。一方、ビットコインは即座に2%上昇した。その後は毎週、ワクチン開発の期待できるニュースがあり、ゴールドの下落とビットコインの上昇というトレンドが続いた。
ゴールドからビットコインに資金が流れているとすれば、経済への楽観的な見方が増えるに伴って、株式や暗号資産などの「リスクオン」取引に参入する意欲が高まっていることが理由かもしれない。であれば、ビットコインが安全資産の役割を担っていることを意味しない。
近い将来、また危機が起これば、少しは明確になるかもしれない。今はまだ2020年、未来はわからない。
翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
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原文:First Mover: Why Bitcoin Isn’t a Replacement for Gold Just Yet