企業が簡単にオンライン決済機能を自社サイトに搭載できるプロダクトを開発する米ストライプ(Stripe)が、日本を最重点市場の一つに位置づけ、投資と事業の拡大を加速させている。
昨年には、マッキンゼー(McKinsey & Co)とAppleで金融機関向けのコンサルティングや企業のデジタルトランスフォーメーションを手がけてきた荒濤大介(あらなみ・だいすけ)氏をストライプジャパンの共同代表に起用。日本市場での戦略にさらに磨きをかける。
新型コロナウイルスのパンデミックが日本のデジタル化に拍車をかけるなか、ストライプジャパンは昨年、東京に開発拠点を開設。日本企業のニーズによりマッチする決済プラットフォームの機能を充実させる。一方、荒濤氏主導の下、営業とマーケティング部門にも資金を振り分けていく。
プラットフォームの勃興と日本の特異性
あらゆる業界でデジタルプラットフォームと呼ばれる企業が勃興してきており、日本でも同様の流れが強まっていると、荒濤氏はストライプジャパンの事業戦略を語る上で指摘する。
例えば、配車アプリのリフト(Lyft)が供給サイドのドライバーと、需要サイドのユーザーを結ぶ時に、ストライプの決済サービス「コネクト」が使われている。
プラットフォーマーは、コネクトを通じて供給側に即日報酬を支払うことが可能だ。Eコマース市場に出店するオンライン事業者は、稼いだ売り上げを簡単に受け取ることができる。
シンガポールを拠点にスーパーアプリ化する配車アプリのグラブ(Grab)もコネクトユーザーの一社で、アマゾン・ドット・コムもストライプのサービスを一部利用している。
荒濤氏が日本で注目しているエリアの一つが医療だ。少子高齢化と人口減少が止まらない日本市場で、データとテクノロジーを活用した遠隔診療などの次世代型・医療サービスは注目を集めている。
「プラットフォームが患者と医療サービスの供給サイドを結び、医療業界の構造は今後大きく変わる可能性がある」と荒濤氏は言う。「患者と医療機関との間で行われる決済は、成長可能性のある一つのユースケースだろう」
実際、オンライン診療や疾患管理システム「ヤードック(YaDoc)」を運営するインテグリティ・ヘルスケア(本社・東京中央区)はストライプのコネクトを採用した。ヤードックは、初診の予約から決済までの診療に必要なすべてのカスタマージャーニーをデジタルに完結させるサービス。
急増するサブスク型ビジネス
一方、世界中のあらゆる業界で広がりを見せているサブスクリプション型ビジネスと、ストライプの決済サービス「ビリング(Billing)」の相性は良い。ビリングは定額課金に対応しながら、従量課金に変えることも可能だ。
「日本でもサブスクリプション型ビジネスはあらゆるセクターで増えていく。従来のビジネスモデルを見直して、積極的に変革を求める企業が簡単に導入できる決済サービスが、ストライプの強みだと思っている」(荒濤氏)
また、荒濤氏は、日本のデジタルトランスフォーメーションが加速度的に進んでいけば、日本や日本企業が持つ価値のグローバリゼーションをさらに進めることができると述べる。
ストライプのサービスは、企業が瞬時に世界の130の通貨に対応した決済システムを導入できるよう設計されている。「インターネットのGDPを増大させる」を企業ミッションに掲げているように、ストライプはクロスボーダーに事業展開を行う日本企業に向けた機能をさらに充実させていく。
「DXがようやく始まろうとしている日本に対する期待は大きい。ストライプジャパンは引き続き少数精鋭の体制を維持し、他のパートナー企業とのアライアンスを深化させながら、この市場のニーズを捉えていきたい」と荒濤氏。
増え続けるストライプの企業価値
2010年にサンフランシスコで生まれたストライプは昨年4月、グローバル市場における事業拡大を進めるために6億ドル(約645億円)の資金を調達したと発表。人員をさらに増強し、テクノロジー部門の拡充を図っていくとした。
資金調達時におけるストライプの企業価値は360億ドル(約3兆9000億円)に達したと報じられた。その数カ月後の11月、ブルームバーグはストライプが新たな資金調達を巡る協議を始めたと、関係者の話として報じた。ブルームバーグの記事によると、協議の中で示されたストライプの企業価値は700億ドル(約7兆3000億円)を超えた可能性があるという。
ストライプジャパンは、荒濤氏と、エンジニアリング部門を統括する共同代表のダニエル・ヘフェルナン氏の2トップ体制で日本事業を進めていく。ヘフェルナン氏は、ストライプを創業したアイルランド出身のパトリック・コリソン氏とジョン・コリソン氏(兄弟)の幼なじみで、日本語を流暢に話すエンジニアだ。
|インタビュー・文:佐藤茂
|写真:ストライプジャパン・共同代表の荒濤大介氏(撮影:多田圭佑)