2020年の中国ではブロックチェーンの社会への応用が進み、国家ブロックチェーンインフラプロジェクト「BSN」のスタートや、デジタル人民元のテスト拡大など大きなニュースも相次いだ。新しいプロジェクトの発表など、中小の話題にも事欠かなかった。2021年はどんな年になるのだろうか。
2020年に新設された中国ブロックチェーン企業は8000社超
ブロックチェーン技術の電子情報サービス大手の塞迪研究院が発表した「2020年ブロックチェーン発展の現状と展望」によると、金融と公共部門を中心に応用が進んでいる。ポイントは次の通りだ。
・ 中国ブロックチェーン企業は4万社、うち2020年の新設企業は8129社。
・ 各地方政府の「ブロックチェーン産業園」は2020年に3ヵ所新設され、全国15省28市、44ヵ所に。
・ 2020年スタートしたプロジェクトの応用分野は、金融23%/行政サービス21%/医療健康13%/司法12%/トレーサビリティ11%/その他20%。
・ 金融部門の応用件数は46件、内訳は信用融資20件/電子署名12件/金融9件/越境決済2件/その他3件。
政府高官の展望、ブロックチェーンの行政応用は発展段階へ
2021年の展望を現地メディアのニュースから見てみよう。
テンセントの運営する有力ニュースサイト騰訊網は12月5日、「2021年中国ブロックチェーン産業発展の6大趨勢」を掲載した。政府ブロックチェーン専門委員会副主任、呉桐氏のインタビューをまとめている。呉氏はBSN(Blockchain-based Service Network)とDCEP(Digital Currency Electronic Payment、デジタル通貨電子決済)、2021年の趨勢について語っており、「デジタル人民元は、やがてブロックチェーン上のデータに融合する」と指摘している。
呉氏によれば、BSNは、四半期ごとのバージョンアップ、既存機能の最適化など、基本計画通りに進んだという。新しいノードの構築も活発で、BSNプラットフォームを利用する開発例も増えている。その代表は、銀聯カードの決済アプリ、チャイナユニオンペイである。アップロード2ヵ月で8000万元(12.7億円)を決済している。
呉氏が指摘した2021年の方向性は以下の6点に集約される。
1 ブロックチェーン産業価値の増大は共通認識となり、社会的影響力が拡大する。
2 ブロックチェーンとIoT、AIとの融合が高度に進み、デジタル社会発展の推進力になる。
3 ブロックチェーンの行政応用への効果は、初歩段階から発展段階へ移行する。
4 ブロックチェーン技術の発展によりインターネットは、付加価値を倍増し、“価値インターネット”となる。
5 ブロックチェーンの産業インフラとしての規模が可視化できるようになる。
6 ブロックチェーン教育が進展し、従業者増加、専門細分化、人材の相対的な不足が続く。
フォビ大学学長の展望 ブロックチェーン、実物資産、DeFiの融合が進む
次に、フォビの設立したブロックチェーン教育組織であるフォビ大学の干佳寧学長の発言からBSNや、テンセントの公益チェーンなど最新プラットフォームの現状分析と、2021年の見通しを確認しよう。
氏の発言は、有力証券情報サイト、中証網は11月13日「2021年ブロックチェーン応用のビッグバンせまる」に掲載されたものだ。
干氏は、ブロックチェーンは産業で実装された場合のみ、その本質的価値を実証できると指摘。その上で、BSNを含むトップランクのプラットフォームは、議論と検証を経て、着実に前進した、BSNはブロックチェーン展開、運用のための公共インフラネットワークとして、ブロックチェーン開発コスト低減のソリューションとなっている、と評価した。
干氏は、2021年は社会への応用が爆発的に展開すると予測している。方向性は以下の3つだ。
1 実物資産が広くチェーン化される。さらにチェーン上の実物資産とDefi(Decentrailzed Finance、分散型金融)の結合がブロックチェーン業界に力を与える。
2 デジタル人民元の展開が企業のDXを推進させる。
3 データ保護とデジタルアイデンティティが進展し、新しいデジタル資産化のプロセスが加速する。
2021年はスタートアップ企業に注目
呉桐氏と干佳寧氏、官民いずれも「2021年はブロックチェーンの歴史上、重要な節目の年になる」との見方を示している。
デジタル人民元は徐々に可視化されてきた。20年10月の深セン市に続き、12月は蘇州市でテストが始まった。主導するのは中央銀行で注目度は高く、小さな動きも逐一報道される。
2020年、大手ニュースサイトのBSN関連報道は、アリババやテンセント、銀聯カードなど有名企業がからむケースが中心だった。しかし中国には4万社のブロックチェーン企業が、社会への応用を競っている。専門サイトの小さなニュースはたくさんあった。
小さなニュースとは、あくまで現在の評価に過ぎず、大爆発のエネルギー源になり得る。2021年は中小スタートアップ企業が大化けする可能性に注目したい。
|文:高野悠介
|編集:濱田 優
|画像:LIPING, Mehaniq, Tasefa design / Shutterstock.com