大量のビットコインを取引する機関投資家は、自らの意図が公になるリスクを軽減するために、大手取引所の協力を得て取引規模を隠し、密かに取引を進める。大口取引の事実がパブリックに露出すると、価格に大きな影響を与える可能性がある。
ブロックタワー・キャピタル(BlockTower Capital)のアビ・フェルマン(Avi Felman)氏は12月の最終週、大口取引の予兆を察知した。
機関投資家と思われる買い手が暗号資産(仮想通貨)取引所のコインベース(Coinbase)で、相当量のビットコイン(BTC)を購入していた。一連の取引は、20〜40ビットコインの規模の継続した買い注文が見られるだけだった。つまり、大量のビットコインが複数の小口注文を通じて購入されていた。
「ビットコイン価格が2万6800ドルを超えた以降、何者かが(イーロン・マスク?)コインベースで20〜40ビットコインの買い注文を続けている」と、フェルマン氏は12月31日にツイートした。
小口注文に分割する
機関投資家が大口注文を一度に行うと、そのポジションを市場に伝えることになり、価格は投資家にとって不利な方向に動く可能性がある。小口注文を行うことは本質的には市場を欺き、現状の価格水準ではあまり関心がないと思わせることになる。
こうした戦略は、「リローディング」あるいは「リフィル」戦略と呼ばれる。例えば、1000ビットコインの購入を計画するトレーダーは、まず50ビットコインの買い注文を出す。取引所が、例えば45ビットコインの取引を実行するのを待ってから、再度50ビットコインの注文を出す。このプロセスを、計画の1000ビットコインの購入が完了するまで繰り返す。
ポーランドのセキュリティ研究者でトレーダーのマテウス・レック(ツイッターアカウント名は@NullZeroX)氏が指摘するように、機関投資家は大量の注文を市場で行う時にこうしたプロセスを用いる。
氷山の下に隠された大口注文
パリのトレーディング会社ExoAlphaの最高投資責任者、デビッド・リフチッツ氏によると、リフィル戦略は、氷山が海面の下に巨大な部分を隠しているように大口注文を小口注文に分割する「氷山注文(Iceberg Orders)」に似ていると話す。
1つの小口注文が処理されると、次の注文が市場に送られる。それぞれの注文量は、異なる場合がある。
上記データ(イギリスのデジタル資産向けクラウド分析プラットフォーム、APEX:E3が提供)は、今月7日までの5週間にコインベースで見られた氷山注文と思われる取引を示している。
一連のまとまった注文が同時に、だが異なる価格で行われており、典型的な氷山注文の特徴が見られる。具体的には、協定世界時12月11日4時に、317、269、297ビットコインの3件の買い注文が、1万7500ドル、1万7500ドル、1万6500ドルで行われた。当時、ビットコインは1万7800ドル付近で取引されていた。
こうしたステルス戦略の実行は、市場の安定化と大幅な値動きの回避に役立つが、アルゴリズム(機械取引)を通じてのみ可能だ。つまり、氷山注文、あるいはリフィル注文を望む機関投資家向けに、ほとんどの取引所がサービスを提供している。
取引所のアルゴリズム取引
「バイナンス(Binance)、コインベース、FTX、ビットフィネックス(Bitfinex)、ビットスタンプ(Bitstamp)のような大手取引所は、アルゴリズム取引ができる」とAPEX:E3の共同創業者兼CEOのウスマン・カーン氏は述べた。また、大半のアルゴリズム取引は、情報漏洩を最小限に抑えるために氷山注文を行うという。
「ソフトウェアがリアルタイムで注文実行を監視し、トレーダーが定めた量が購入/売却されるまで、注文を追加する。注文のサイズは、ランダムに設定される場合もある」とレック氏は述べた。
しかし、熟練トレーダーは、一連のリミット取引(特定の価格、あるいはそれより有利な価格でビットコインを購入/売却する注文)が継続的に行われていることを見つけることで、氷山注文、あるいはリフィル注文を見分けることができる。そのため、機関投資家は、単一の取引所だけではなく、複数の取引所を使って氷山注文を行う。
「通常、利用可能な流動性に応じて、時間とサイズをランダムにする。複数の取引所で注文が分割されているほど、取引はより巧妙に行われる。大口注文を利用しようとする他のトレーダーに利用される可能性は小さくなる」とExoAlphaのリフチッツ氏は語った。
|翻訳: 山口晶子
|編集:増田隆幸、佐藤茂
|画像:358611/Pixabay
|原文:Institutions Use This Strategy to Hide Their Bitcoin Orders