金融庁は5月上旬、アジア、欧州、中東諸国の規制当局者らを招いて3月に開いたブロックチェーン・ラウンドテーブルの討論内容を公開した。議論は分散型金融システムがもたらす新たなリスクにも及び、6月に福岡で開かれるG20財務大臣・中央銀行総裁会議でも重要なテーマの一つになりそうだ。
金融庁は3月27〜28日、ブロックチェーン・ラウンドテーブル(Blockchain Round-Table)を開催。金融安定理事会(FSB)や国際通貨基金(IMF)、フランスの中央銀行、シンガポールや香港、アブダビの金融規制当局などの担当者が出席し、分散型金融システムから生まれるリスクを軽減する方法などについて話し合った。
例えば、ブロックチェーンを基盤とする分散型金融システムの中で、プライバシー保護を強める技術が進んでいけば、ユーザーにとっては同システムの有効性は増す一方、マネーロンダリング(資金洗浄)などの金融犯罪に巻き込まれるリスクにさらされる可能性もある。
現に、国連安全保障理事会の専門家パネルは3月、北朝鮮のハッカー集団が仮想通貨取引所にサイバー攻撃をしかけ、数百億円の資産を盗み出した可能性を示唆する報告書をまとめた。マネーロンダリングに対する要求が世界的に高まる中、10月には政府間会合のFATF(金融活動作業部会)が、国内の金融機関に立ち入り検査を行う。
3月のラウンドテーブルで議論された主なテーマは以下の通りだ。
- さまざまなステークホルダー(規制当局、エンジニアコミュニティー、企業、投資家・ユーザー、学術界)を含めて、ブロックチェーンを活用した分散型金融システムがもたらすリスクを軽減する方法とは。
- (分散型金融システムの)エコシステムの全てのステークホルダーが価値を共有する必要性とその重要性。
- これらのステークホルダーが互いを理解し合い、対話を通じて協力を促す場の創造。
- 金融規制当局は、金融機関に対して監査可能なブロックチェーンのみの使用を義務づけることを検討する必要があるかもしれない。
各国の金融当局で構成されるFSBはG20で、分散型テクノロジーがもたらす金融システムの安定性への影響に関する報告書を提出する方針だ。
ブロックチェーン・ラウンドテーブルには、規制当局の他に各国の大学から専門家らも出席した。金融庁の公開資料によると、ブロックチェーン研究で知られる米ジョージタウン大学や英ケンブリッジ大学、国内からは東京大学、京都大学、慶應義塾大学の研究員が議論に加わった。
5月13日〜15日、ニューヨークではブロックチェーン・仮想通貨の世界最大級のイベント「Consensus2019」が開かれたが、出席した米財務省・テロリズム金融情報分析担当次官は、マネーロンダリングやテロの資金調達における事例を挙げ、こう述べている。
「送金のスピード、迅速な決済、世界規模での拡大、匿名性の向上など、ユーザーや企業にとって最も魅力的な(仮想通貨の)機能のいくつかは、世界に脅威をもたらすテロ支援国家やテロリストに機会を与える可能性がある」
文:佐藤茂
編集:浦上早苗
写真:Shutterstock
取材協力:小西雄志