偽造防止、ウォレット、個人データ主権ウォレット──万博でのキャズム超えに期待【第5回 ブロックチェーンEXPO レポート】

2024年11月20日〜22日にかけて、「第5回 ブロックチェーンEXPO【秋】」が幕張メッセにて開催された。ブロックチェーン技術を活用した最新サービスを提供する企業が多数出展し、多くの来場者で賑わった。連日、注目事例を紹介するカンファレンスセッションが開催された中、今回は20日に行われた3つのセッションについてレポートする。

今回の出展企業で目を引いたのは、入口付近に大きなブースを構えたマネックスグループだ。同社が展開するWeb3新ブランド「Monex Web3」の紹介とともに、パートナー企業とのトークセッションも開催。11月18日には、個人に紐づくブロックチェーン上のID「Monex Web3 ID(MID)」のオープンベータ版の提供も開始しており、スタッフはその説明に追われていた。

その隣のブースに出展していたのが、SBINFT。同社が展開するNFTマーケティングプラットフォーム「SBINFT Mits」を展示していた。NFTプロジェクトの運営に必要な様々な機能を搭載しており、採用事例は増えつつあるという。

そのほか印象的だったのは、DAO(分散型自律組織)の構築運営ツールを提供する企業が複数あったことだ。国内においては、24年4月に合同会社型DAOが解禁されたこともあり、今後、こうしたツールに注目が集まると予想される。

併設するカンファレンス会場では、連日、ブロックチェーンの最新事例を紹介するセッションが開催された。今回は、20日に開催された3つのセッションについて紹介しよう。

[マネックスグループのブースではCoinDesk JAPAN編集長の増田隆幸が事例紹介のモデレーターを務めた]

旭化成が提供する偽造防止デジタルプラットフォーム「Akliteia ®(アクリティア)」

1つ目のセッションは、旭化成が提供する偽造防止デジタルプラットフォーム「Akliteia ®(アクリティア)」の事例だ。世界的にも偽造品問題は根深く、グローバルでの被害額は50兆円、日本企業だけでも3.2兆円にも及ぶと言われている。つまりこれだけの機会損失が生まれていることになる。

このサービスの根幹となるのが、旭化成が独自に開発したサブミクロン単位での印刷技術だ。この技術によって印刷された偽造防止ラベルは、肉眼ではわからないほど精密なもので、複製をすることはまず不可能。そのため、このラベルが貼られているかどうかを確認すれば、真贋の見極めができるというわけだ。

「目には見えないので、独自の真贋判定デバイスを開発した。将来的には、誰もがスマホで気軽で判定できるような技術の開発を進めている」と旭化成研究開発本部イノベーション戦略総部PEDプロジェクト 主査の秋山弘貴氏は語る。

[旭化成研究開発本部イノベーション戦略総部PEDプロジェクト主査の秋山弘貴氏]

こうした真贋データをブロックチェーン上で管理することで、サプライチェーン全体の信頼をさらに高めることを目指したのが、偽造防止デジタルプラットフォーム「Akliteia ®(アクリティア)」だ。ブロックチェーンプラットフォームとしては「Corda」を採用した。

「真贋判定が侵されてしまったら元も子もない。改ざん耐性が強く、外部企業も巻き込みながら柔軟にカスタマイズできるという点で、ブロックチェーンが最適だと考えた」(秋山氏)

今回、このサービスを導入したのが、機能性材料メーカーであるアジア物性材料だ。同社は、ダイヤモンド加工で利用される機能材料(セレン)を販売しているが、長年パッケージを模倣した偽造品に悩まされてきた。純度の低い偽造品では精度が下がってしまい、同社のブランド価値の毀損へとつながってしまう。

[パッケージを模倣した偽造品が発生している]

ダイヤモンド加工は、インドが9割のシェアを持っており、同国のサプライチェーンの複雑さも偽造品が横行する要因だった。

「パッケージに偽造防止ラベルを貼り、インドの輸入業社が流通情報をブロックチェーン上に登録した上で、中間業社に販売する。最終的にセレンを使用する加工業者が真贋判定を行うことで、偽造品ではないと判断できる」と、アジア物性材料の比嘉憲将氏は説明する。

[アジア物性材料の比嘉憲将氏]

まだ導入されたばかりで、効果検証はこれからだという。

「ただ、偽造品対策をしっかりやっている会社として、インド市場での評価が上がっているのを感じる。目に見えないブランド価値向上にも寄与していると思う」と比嘉氏は語る。

大阪・関西万博で期待される日本のWeb3のキャズム超え

次に開催されたのが、「EXPO 2025 大阪・関西万博を契機に普及が期待されるWeb3技術」と題したセッションだ。

登壇したのは、KDDI事業創造本部Web3推進部長の舘林俊平氏、日立製作所研究開発グループ主管研究員/博士(情報理工学)の高橋健太氏、HashPort代表取締役CEOの吉田世博氏の3氏。それぞれの企業のWeb3に関連する取り組みと大阪・関西万博での役割について語った。モデレーターは、CoinDesk JAPANを運営するN.Avenue代表取締役社長の神本侑季が務めた。

KDDIは、Web3関連サービス群として「αU(アルファユー)」というブランドを展開する。その中でもメインのサービスとなるのは、KDDI独自のウォレットである「αU wallet」とNFTマーケットプレイス「αU market」だ。αU marketでは24年7月から、法人・個人事業主向けの販売機能を解放。より開かれた「クリエイターエコノミー」の推進を目指す。

「今後はさらにマスアダプションを加速させていきたい。Web3やNFTなどの言葉を使わずに、一般のお客様に使ってもらえる機会を増やすことが重要だ」と舘林氏は語る。

[KDDI事業創造本部Web3推進部長の舘林俊平氏]

日立製作所は、同社独自の生体認証基盤「PBI(Public Biometric Infrastructure)」を活用し、生体情報から秘密鍵を生成する技術を提供する。これにより、これまでWeb3のマスアダプションを阻む大きな課題であったウォレットの鍵管理が、自分の体ひとつあるだけで可能となる。

「スマートフォンがなくても、パスワードを覚えていなくてもいい。HashPortと一緒に進めてきた技術実証実験が完了し、実際に導入可能だということが確認できたところだ」(高橋氏)

[日立製作所研究開発グループ主管研究員/博士(情報理工学)の高橋健太氏]

HashPortは、大阪・関西万博の公式アプリ「EXPO 2025 デジタルウォレット」を提供する。このアプリが非常にユニークなのは、決済機能やポイント取得など、Web3以外のサービスも含まれている点だ。2023年11月にベータ版がリリースされており、すでに多くのNFTサービスが展開されている。大阪外食産業協会に加盟する企業で使えるNFTクーポンの配布のほか、JR西日本と実施した大阪環状線のNFTスタンプラリーは大きな人気を博した。

[HashPort代表取締役CEOの吉田世博氏]

「経済産業省が公表している目標来場者数2800万人が達成できると考えると、1000万人単位の人が一気にウォレットを持つことになる。インターネット普及期にモデムが配布されたときと同じような状況になるだろう。これは日本のWeb3にとって大きな転換期になると期待している」(吉田氏)

KDDIと日立製作所はプラチナパートナーとして大阪・関西万博に協賛しており、「Society 5.0と未来の都市」をテーマとしたパビリオンで共同展示を行う。リアルとバーチャルが融合した展示になるという。

「我々が考える未来の都市を提示するのではなく、不確実性の高い今の時代において、どのような未来にしていきたいかを皆さんに考えてもらうような展示にしていきたい」(舘林氏)

今回の大阪・関西万博で期待されるのは、日本のWeb3がキャズムを超えるきっかけになるのではないかということだ。

「コンテンツがないからウォレットが普及しない、ウォレットが普及しないからコンテンツ育たないという、『鶏と卵』の課題が収束に向かうのではないか」と吉田氏は語る。

[「EXPO 2025 デジタルウォレット」は大阪・関西万博終了後も利用できる]

では、その先に見えてくる世界とはどのようなものなのだろうか。

「今まで見えなかった価値が可視化されるようになるだろう。私はこれを『信頼資産』と呼んでいる。また、そうした信頼情報は、ユーザー自身が管理するようになり、情報の提供先を自分で選ぶことができるようになる。企業はユーザーに対して、本当にロイヤリティを持ってもらえるようなコミュニティ形成ができるかどうかが重要になってくるだろう」(吉田氏)

モデレーターの神本は「Web3が社会に浸透することで、ワクワクするような未来が来ると想像できたのではないか」と語り、セッションを締めくくった。

[N.Avenue代表取締役社長の神本侑季]

個人がデータ主権を持つ社会の実現に向けたNTT Digitalの挑戦

最後のセッションは「web3の社会実装に向けた『NTT Digital』の取り組みと展望」だ。NTT Digital取締役/Managing Directorの谷直樹氏が登壇した。

[NTT Digital取締役/Managing Directorの谷直樹氏]

同社は2022年12月にNTTドコモの100%子会社として設立され、23年7月に「NTT Digital」へと社名変更した。「Free to Trust」というビジョンのもと、Web3の普及を推進していくという。

「お客様個人がデータをコントロールできる世界がWeb3の本質だと我々は捉えている。そうした機能をお客様が使いやすくする仕組みを考えていきたい」と谷氏は語る。

その第一弾として、2024年3月にリリースしたのが「scramberry WALLET」だ。電話番号だけで初期登録ができ、直感的でわかりやすい操作性を追求した。また安全性の高いバックアップ機能や充実したセキュリティも実現、ユーザーに安心して使ってもらえるウォレットを目指した。

[直感的でわかりやすい操作性を追求した「scramberry WALLET」]

さらに2024年9月には、デジタルウォレット機能をAPI・SDKとして事業者向けに提供する「scramberry WALLET SUITE」のサービスを開始。これにより、すでに自社のサービスを展開している事業者が、既存のアプリにWeb3の機能を組み込めるようになる。

2024年4月に熊本で開催されたファッションイベント「TGC KUMAMOTO 2024 by TOKYO GIRLS COLLECTION」では、 NFTやドリンクなどの特典を付与することでファンコミュニティの活性化を目指したトライアルを実施。95%もの人が「同様の企画があればまた参加したい」と応えるなど好評を博した。

卒業アルバムの制作を主力事業とするマツモトとは、友達や恩師との絆を紡ぎ続ける「人間関係のハブ」となるような、新たな卒業アルバムの開発を進める。卒業証書や、部活動の成果、ボランティア活動など、学生時代の活動履歴をNFT化し、多様な個性を証明しやすい社会への実装を目指す。

またシンガポールで開催された「Singapore Fintech Festival」において、Amazonの売掛金をトークン化し、最大90日ほどかかる資金回収を早めることができるデモンストレーションを行なった。現地では多くの人が立ち寄り、盛況だったという。

関連記事:金銭債権のトークン化、10兆円とも言われる巨大市場の可能性とは──NTT Digital、シンガポールでAmazon売掛金のトークン化を展示

「現在、多くの企業と『scramberry WALLET SUITE』の導入プロジェクトが進んでいる。ぜひ新しい体験を期待していただきたい」(谷氏)

[売掛金のトークン化など、様々な導入プロジェクトが進んでいる]

また、NTT Digitalが、円滑な企業連携の実現を目指すために立ち上げたプロジェクトが「web3 Jam(ウェブスリー ジャム)」だ。現在28社が参画しており、24年8月には、経済産業省の令和5年度補正予算事業である「Web3.0・ブロックチェーンを活用したデジタル公共財等構築実証事業」にも採択された。「地方創生」「健康ヘルスケア」「推し活」などの社会テーマを決め、テーマごとに企業グループを形成し、企業間連携の可能性を探る。

「ユーザー個人がデータを管理できるようになれば、企業間連携がさらに進むという仮説を持っている。企業にとっては、これまでにない潜在顧客層にリーチできるようになるメリットがある」と谷氏は説明する。

今後は、こうした「デジタルウォレットインフラ事業」の他に「ブロックチェーンインフラ事業」にも力を入れる計画だ。ブロックチェーン上にデータを書き込む際にその正しさを検証する「バリデーションビジネス」や、高速で安定したノードを提供する「Node Provider Indexer(仮)」サービスなどを展開する予定となっている。

NTT Digitalは、個人が自身のデータを管理するWeb3時代に向けて、相互運用可能な多目的ウォレットを開発するためのオープンソース推進プロジェクト「OpenWallet Foundation(OWF)」に民間企業として日本で初めて加盟した。ウォレットのインターオペラビリティを強化していく考えだという。

「個人がデータ主権を持つ時代には、ウォレットのデータが正しいかどうかを検証、証明する仕組みが必要となる。これらを実現するための信頼できるインフラストラクチャを構築していきたい」と谷氏は語り、セッションを締め括った。

なお、ブロックチェーンEXPOは、すでに2025年【春】【秋】の開催が予定されている。

【春】2025年4月15日(火)〜17日(木)東京ビッグサイト(東展示棟)
【秋】2025年10月9日(水)〜10日(金)幕張メッセ

現在、出展企業募集中。出展資料は以下から。

ブロックチェーンEXPO【春】【秋】の出展資料を取り寄せる

|文・写真:橋本史郎
|編集:coindesk JAPAN編集部