中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは?デジタル円やデジタルドルはいつ発行?

中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する議論が世界的に加速している。日本の中央銀行は現時点では発行する計画がないとするものの、CBDCに関する研究や準備を進めていることは公にし、実証実験も進めている。

海外ではすでに実証事例があり、たとえば中国では中国人民銀行がすでに北京オリンピックなどで実証的にCBDCを導入した。アメリカでも開発の機運が高まっており、将来的に米中がCBDCの領域で世界をリードする可能性がある。

この記事では各国の最新動向も交えつつ、CBDCの基礎基本について解説する。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは?

CBDCは「Central Bank Digital Currency」を略したワードだ。「Central Bank」は中央銀行、「Digital Currency」はデジタル通貨を意味する。中央銀行デジタル通貨ではなく「法定デジタル通貨」や、より分かりやすく「中央銀行発行デジタル通貨」と呼ばれることもある。

世界で初めてCBDCを発行したのはバハマの中央銀行で、2020年に同国の法定通貨であるバハマドルのCBDCを発行した。名称は「サンドダラー」で、バハマドルと価値が連動していることが特徴だ。

一般的に、「デジタル円」と言えば日本におけるCBDC、「デジタルドル」と言えばアメリカにおけるCBDC、「デジタルユーロ」と言えばユーロ圏におけるCBDCのことを指す。

CBDCに期待される役割

CBDCにはその役割・機能によって大きく2つの型に分類される。「ホールセール型CBDC」(wholesale CBDC)と「一般利用型CBDC」(general purpose CBDC)だ。

ホールセール型CBDC

ホールセール型CBDCは利用者が金融機関に限定され、国同士の中央銀行間や中央銀行と民間銀行の間での利用が想定される。

一般利用型CBDC

一般利用型CBDCは、従来の法廷通貨と似た流通の仕組みを取り、企業や一般消費者の利用も想定される。要は、中央銀行が発行したCBDCを、金融機関を通じて一般消費者に流通させる流れだ。現在特に注目を集めているのはこの一般利用型CBDCの方であり、以下、詳しく説明していきたい。

「一般利用型CBDC」のユースケース

ではこの一般利用型CBDCが発行された場合、どのようなユースケース(利用シーン)が考えられるのだろうか。

現金の代わりに使うという考え方

まず最も重要な点が、現金の代わりに利用されるという点だ。すでに日本でも多くの国民がさまざまなデジタル決済をごく当たり前のように利用するようになっている。交通系ICカードやQRコード決済、クレジットカードなどだ。

日本でいわゆる「デジタル円」が発行されれば、これまでの流れから多くの国民が現金の代わりとしてCBDCを利用しようとすることは容易に想像がつく。

決済システムの効率化・負担軽減

現金の代わりにCBDCが使われれば、当然、決済システムは効率化される。物理的な物質である現金を扱うことの煩わしさから解消され(簡単に言えば「1枚、2枚…」と現金を数える必要がなくなるわけだ)、決済情報は全てサーバー上で自動的に記録・更新されることになる。

匿名性の希薄化による犯罪防止効果

CBDCの強みであり、一方でプライバシー的な視点では議論もあるのが、「匿名性の希薄化」だ。現金と比較するとよく分かるが、いま手元にある現金は誰から誰へと流通してきたのかを追いにくい。一方、CBDCはお金の流れがデジタルデータで可視化される

そのため、資金の送金などを繰り返して資金の出所を分からなくする「マネーロンダリング」といった犯罪集団による資金洗浄を抑止することができる。一方、自分がどのようにお金を使ったか記録されたくない消費者も多いのが現状で、今後はこの点に関しての議論が一層加速していくだろう。

各国における取り組み状況

続いて各国における取り組み状況を整理していこう。

日本銀行の取り組み状況は?

日本銀行は2020年10月、公表している資料において「現時点でCBDCを発行する計画はないが、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要」としている。その後、2021年4月にCBDCの実証実験を開始し、パイロット実験の実施にも取り組んでいる。

アメリカの取り組み状況は?

アメリカの中央銀行に相当する米連邦準備理事会(FRB)は2022年1月、CBDCに関する報告書を公表し、CBDCのメリットやデメリットを整理した。発行するかどうかの決定はまだだが、バイデン政権はすでにCBDCの開発加速に関する大統領令に署名している

欧州における取り組み状況は?

デジタルユーロの発行に関しては、欧州は日本やアメリカよりも前向きな印象だ。欧州中央銀行(ECB)は発行実現に向けたプロジェクトを2021年にスタートさせており、早ければ2023年中にも発行が決定される見込みだ。2026年の発行を見据えているという情報もある。

中国の取り組み状況は?

大国の中では中国の取り組みが最も進んでいる。冒頭触れた通り、すでに北京オリンピックなどで実証的に導入している。中国はデジタル元の発行によって中国の経済圏を世界に拡大させたい狙いがあり、日本や欧米も戦々恐々としている

その他の国

カンボジアでは2020年から、日本企業であるソラミツの技術を採用したデジタル通貨「バコン」の運用を開始している。またソラミツは、2023年にラオスでも実証実験を開始している。

引き続き各国の動向に注目を

CBDCを発行しているか、発行を決めた国はまだ数少ないが、この潮流はもはや止められないものだ。引き続き各国の動向に注目だ。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関するQ&A

中央銀行デジタル通貨とは?

中央銀行が発行する「Central Bank Digital Currency」のことで、「CBDC」と略される。

すでにCBDCを発行している国はある?

ある。2020年にバハマが世界で初めてCBDCを発行した。

CBDCにはどのような種類がある?

大きく「ホールセール型CBDC」(wholesale CBDC)と「一般利用型CBDC」(general purpose CBDC)の2種類に分類できる。ホールセール型CBDCは中央銀行間や民間銀行などの金融機関向けのCBDCで、一般利用型CBDCは企業や一般消費者の利用も想定している。

CBDCで最も進んでいる国は?

大国の中では中国の取り組みが進んでいる印象だ。日本やアメリカ、欧州はまだ検討段階だが、欧州中央銀行は早ければ2023年内に発行を決定する可能性がある。

参考文献

「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」の公表について
https://www.boj.or.jp/paym/digital/rel201009e.htm

中央銀行デジタル通貨に関する実証実験について
https://www.boj.or.jp/paym/digital/dig230217b.pdf

サンドダラーとは? 意味や使い方|コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%80%E3%83%A9%E3%83%BC-2783973

「デジタル円」課題洗い出し 財務省、4月にも新会議|日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA303FO0Q3A330C2000000/