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「トラベルルール」(Travel Rule)とは、暗号資産(仮想通貨)の送金を行う取引所が、送金の依頼者と受取人の詳細情報を、受取人側の取引所に通知しなければならないという規則だ。
日本では犯罪収益移転防止を目的に「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)」の改正案が6月1日に施行し、トラベルルールについて盛り込まれた。テロリストなどが自由に資金移転システムを利用することを防止し、不正利用があったときにその追跡をできるようにすることを目的としている。
これを受けて各国内暗号資産取引所でトラベルルールに関する対応が行われ、暗号資産の送金をする全ての利用者に大きな影響を与えることとなった。本記事では、トラベルルールの詳細を解説し、送金に与える影響やデメリットと各国内取引所の対応を紹介する。
トラベルルールとは?
トラベルルールは、日本政府が制定した仮想通貨の送金を行う取引所に対して、送金の依頼者と受取人の詳細情報を、受取人側の取引所に通知しなければならないという規則である。マネーロンダリングやテロ資金供与対策を理由に導入されており、金融庁の認可を受けたすべての国内取引所で対応が求められることから、取引所間の送金に広く影響を与えている。
トラベルルールが送金に与える影響やデメリット
トラベルルールが送金に与える影響やデメリットは以下の通りだ。
- 送金前の事前準備が必要
- 取引所間によっては送金できなくなる
- 仮想通貨によっては取引所から送金できなくなる
送金前の事前準備が必要
トラベルルールでは依頼者の詳細情報を送金先の交換業者に通知するため、送金を依頼する取引所に情報を登録する必要がある。例えば、Coincheckでは取引所間の送金に以下の情報を求め、通知することを明らかにしている。
- 送金人名(個人・法人)
- 受取人名(個人・法人)
- 顧客識別番号等
- 当該アドレスを特定できる番号等(ブロックチェーンアドレス等)
多くの取引所では、一度情報を登録すれば、送金するたびに情報の入力を求められることはない。ただし、通知する情報が登録されていない場合は、トラベルルールの実施後の送金では本人確認書類の提出を含めて事前準備が必要になる。
取引所間によっては送金できなくなる
トラベルルールではそれぞれの取引所でトラベルルール対応ソリューションを採用しており、国内取引所ではTRUST(Travel Rule Universal Solution Technology)とSygna(Sygna Bridge)の2種類のソリューションがある。異なるソリューションを採用する取引所間では送金ができない点に注意が必要だ。
例えば、CoincheckではTRUSTが採用されているが、GMOコインではSygnaが採用されているため、異なるソリューションを採用していることから、CoincheckとGMOコイン間では暗号資産の送金ができない。一方で、同じTRUSTを採用しているbitFlyerではCoincheck間で送金が可能だ。
仮想通貨によっては取引所から送金できなくなる
トラベルルールの施行により、送金を依頼する取引所や仮想通貨によっては送金を受け付けなくなる可能性がある。例えば、Coincheckでは、送金に対応する仮想通貨を限定している。取り扱いがあっても一部の銘柄が送金できなくなるため、注意が必要である。
ただし、2023年7月時点での状況であるため、今後送金に対応する仮想通貨が増える場合や、異なるソリューション同士の送金に対応する可能性もある。
トラベルルールに対する各国内取引所の対応
トラベルルール対応ソリューションは2種類あり、それぞれの国内取引所がいずれかのソリューションを採用している。各国内取引所のソリューション採用状況は以下の通りだ。
TRUSTを採用する国内取引所
Sygnaを採用する国内取引所
- GMOコイン
- DMM Bitcoin
- bitbank
- SBI VC Trade
- BITPoint
- BitTrade
- 楽天ウォレット
- LINE BITMAX
- BTCBOX
- OKCoinJapan
- Zaif
- CoinTrade
- Tokyo Hash
- Himalaya Japan
- WhaleFin
- CoinBest
- coinbook
以上を踏まえたうえで、代表的な国内取引所のトラベルルールへの対応を紹介する。
Coincheck(コインチェック)
CoincheckではTRUSTを採用し、同じTRUSTを採用したbitFlyerやBinance、Bybitなどの海外取引所やMetamaskなどのウォレットに送金可能だ。ただし、TRUSTを採用する取引所への送金ではTRUST対応の暗号資産以外は送金できない。TRUST導入サービス間の暗号資産の送金可否を以下にまとめた。
暗号資産 | 送金の可否 |
BTC | 〇 |
ETH | 〇 |
ETC | × |
LSK | × |
XRP | × |
XEM | × |
LTC | × |
BCH | × |
MONA | × |
XLM | × |
QTUM | × |
BAT | 〇 |
IOST | × |
ENJ | 〇 |
OMG | 〇 |
PLT | 〇 |
SAND | 〇 |
XYM | × |
DOT | × |
FLR | × |
FNCT | 〇 |
CHZ | 〇 |
LINK | 〇 |
同じTRUSTを採用している取引所で共通して取り扱いのある暗号資産でも、送金に対応していない場合があるので注意が必要となる。
bitflyer(ビットフライヤー)
bitFlyerはTRUST採用の国内取引所と、通知対象国以外の海外取引所と、プライベートウォレットへの送金が可能だ。TRUST採用の取引所に対しては、BTC、ETH、ERC-20 の暗号資産である BAT・LINK・MATIC・MKR・SHIB・PLTの送金ができる。Coincheck間で送金できるのは、BTC、ETH、BAT、LINK、PLTである。
また、bitFlyerは今後の利用状況を踏まえて、TRUST以外のトラベルルール対応ソリューションの採用も検討するとしている。
GMOコイン
GMOコインはSygnaを採用しており、TRUSTなどの他のソリューションを採用する取引所と金融庁が指定する20の国や地域の取引所への送金はできない。一方で、同じSygnaを採用している取引所への送金が可能であり、送金する暗号資産の制限もない。TRUST採用の取引所と共通してプライベートウォレットへの送金も可能だ。
DMM Bitcoin
DMM BitcoinもSygnaを採用しているが、他の取引所から送金を受け、入金となる場合に限り、Sygnaを採用していない国内取引所にも対応しているのが特徴だ。入金元の情報を個別にヒアリングした上で対応するため、入金反映に時間がかかる場合がある。
トラベルルールを回避する方法
トラベルルールを回避する方法を2つ紹介する。
- ウォレットを経由する送金には制限がない
- 同じソリューションを採用した国内取引所間では送金できる
ウォレットを経由する送金には制限がない
トラベルルールは取引所間の送金を制約する規則であるため、自身のプライベートウォレットへの送金には制限がない。ただし、ウォレットを通してほかの取引所に送金する場合は、送金の手順が「送金を依頼する取引所→ウォレット→受け取る側の取引所」となるため、送金の回数が増えることからコストがかかりやすい点に注意が必要だ。
同じソリューションを採用した国内取引所間では送金できる
必要な情報を取引所に通知する必要があるが、同じトラベルルール対応ソリューションを採用した国内取引所間であれば送金は可能である。ただし、TRUST採用の場合は送金できる暗号資産に制限がかかることもある。
トラベルルールの実施により海外取引所を利用しにくくなる
トラベルルールの実施により、多くの取引所で通知対象国である海外取引所への送金ができなくなった。ウォレットを経由して海外取引所に送金する場合は、送金手数料がかかりやすい。よって、トラベルルールの施行により、海外取引所を利用しにくくなっている。
一方で、同じトラベルルール対応ソリューションを採用した取引所間の送金はできるので、コストを避けて送金するなら国内取引所を中心に暗号資産を取引することを推奨する。