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2022年4月、国税庁がNFTの課税関係に関するタックスアンサーを公表した。ここでNFTの税金について整理したい。
NFTの売買で税金が発生するタイミング
まず、どのような場合にNFTで税金が発生しうるのか解説する。
NFTを取得するとき
NFTの購入代金は、イーサリアムといった暗号資産(仮想通貨)でまかなわれるケースが少なくない。この場合、NFTの購入に伴い暗号資産を売却することになる。売却する暗号資産が取得時より値上がりしている場合、税金が発生する可能性がある。
例えば、NFTを1 ETHで購入するケースを考えてほしい。NFT購入時のレートを1 ETH=10万円とした場合、NFTの購入で1 ETHを10万円で売却することになる。当該イーサリアムを1 ETH=2万円で取得していた場合、差額の8万円が税制上の所得として認識される。
NFTの取得そのものも課税の対象となるケースがある。暗号資産といった財産的価値がある資産と交換できるNFTを偶発的に取得するケースや、役務提供の報酬として取得するケース などが該当する。ただし、取得したNFTが財産的価値のある資産と交換できない場合は課税されない可能性もある。
NFTを売却するとき
財産的価値がある資産と交換できるNFTを、購入や役務の提供などで取得し、その後売却益を得た場合は課税の対象 となる。例えば10万円で取得したNFTを15万円で売却した場合、差額の5万円が税務上の所得になると考えられる。
クリエイターとしてNFTを販売するとき
クリエイターとして作成したNFTを販売するとき、一般にその対価が課税対象となる。また当該NFTの購入者が第三者へ譲渡した際、クリエイターにロイヤリティが発生するケースがあるが、当該ロイヤリティも税務上の所得になると考えられる。
ブロックチェーンゲーム
ブロックチェーンゲームでは、ゲーム内でNFTの取引が行われることがある。ゲーム内であっても、NFTの売買で利益を得れば、課税対象となることが一般的だ。
またゲーム内の報酬などで、NFTを無償で取得できることもある。この場合も、取得したNFTが財産的価値のある資産と交換できるなら課税の対象となりうる。
ブロックチェーンゲームによっては「スカラー制度」と呼ばれる仕組みがある。これはNFTを他者に貸し出し、その対価を受け取るものだ。スカラー制度によって受け取った対価も、課税対象とみなされる可能性がある。
NFTに関連する暗号資産の売買
NFTの取得などに伴い、関連する暗号資産を売買し売却益を得た場合、「暗号資産に関する税務上の取り扱い」に従って課税される。
NFTの税制
ここではNFTの税金の仕組みについて大まかに解説する。
取得した経緯や売買の目的で所得区分が異なる
所得税は、その所得の性質によっていくつかの所得に分けられる。2022年4月に国税庁が公表したタックスアンサーでは、NFTにまつわる所得区分は以下のように示された 。
【財産的価値と交換できるNFTを取得したケース】
所得区分 | |
---|---|
役務提供の報酬としてNFTを受け取った場合 | 事業所得、給与所得、雑所得 |
臨時・偶発的に取得した場合 | 一時所得 |
上記以外 | 雑所得 |
【財産的価値と交換できるNFTを譲渡したケース】
所得区分 | |
---|---|
NFTが譲渡所得の基因となる資産に該当し、得られた所得がNFTの値上がり益と認められる場合 | 譲渡所得(※1) |
NFTが譲渡所得の基因となる資産に該当しない | 雑所得(※2) |
※1.譲渡が営利を目的として反復的に行われている場合は雑所得または事業所得
※2.規模などによっては事業所得
それぞれの所得の計算方法は後述する。
NFTの売買の税率
NFTを通じて得られる利益はいくつかの所得に分かれるが、最終的に合算して計算される所得金額に応じて税率が決まる。その際、給与といった他の収入に由来する所得も含まれる。この仕組みを「総合課税」と呼ぶ。そして総合課税は所得に比例して税率が上昇する累進課税となっている。
【所得税の税率】
所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円以上~194万9,000円未満 | 5% | 0円 |
195万円以上~329万9,000円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円以上~694万9,000円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円以上~899万9,000円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円以上~1,799万9,000円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円以上~3,999万9,000円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
※2037年までは2.1%の復興特別所得税が別途かかる
所得税のほか、住民税も発生する。自治体によって異なる可能性があるが、所得に応じて課せられる「所得割」の税率は概ね10% だ。
NFTの税金の計算方法
NFTの税金を計算するには、まず各所得区分の所得額を計算する必要がある。上述したNFTで税金が発生しうる取引について、それぞれ所得の計算方法を紹介する。
1. NFTを取得するとき
NFTを暗号資産で購入するとき、購入に伴う暗号資産の売却益を計算する必要がある。暗号資産の売却益は、通常は「雑所得」として計算される 。例えば2万円で取得した暗号資産を10万円で売却するとき、8万円が所得金額だ。
また、財産的価値と交換できるNFTを役務提供で取得した場合、その性質に応じて「給与所得」「事業所得」「雑所得」のいずれかに該当する。計算式は以下の通りだ。
【雑所得の計算式】
総収入金額-必要経費
【給与所得の計算式】
収入金額-給与所得控除
【(参考)給与所得控除一覧】
収入金額(額面) | 給与所得控除 |
---|---|
162万5,000円以下 | 55万円 |
162万5,000円超~180万円以下 | 収入金額×40%-10万円 |
180万円超~360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超~660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超~850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円(上限) |
【事業所得の計算式】
総収入金額-必要経費
役務の提供を伴わず、偶発的にNFTを取得した場合は「一時所得」に相当する。一時所得は50万円の特別控除が設けられているため、取得したNFTの評価額が50万円を下回る場合は基本的に税金がかからない。特別控除を差し引いてもなお金額が残る場合、残額を半額にして計算できるため税負担は小さくなりやすい。
【一時所得の計算式】
(総収入金額-収入を得るために支出した金額-50万円)÷2
一時所得の計算式としては収入金額-50万円までが計算式となる。ただ他の所得と合算する総所得金額の算出のタイミングで÷2になる。正しい記載方法としては÷2は入らない。
2. NFTを売却するとき
財産的価値と交換できるNFTを売却して「譲渡所得」とみなされる利益を得た場合、所得額は以下のように計算する。
【譲渡所得の計算式】
収入金額-(取得費+譲渡費用)
例えば10万円で取得したNFTを15万円で売却したとき、譲渡所得は5万円だ。
ただしNFTの売却は「事業所得」か「雑所得」とみなされるケースもある。その場合は上述した計算式を参考にしてほしい。
3. クリエイターとしてNFTを販売するとき
クリエイターとしてNFTを販売し得た利益は、「事業所得」か「雑所得」とみなされると考えられる。
なお、国税庁が2022年8月に発表した通達の一部改正案において、収入が300万円以下の副業は雑所得とみなす旨が発表された 。本業を他に持つクリエイターで、かつクリエイターとしての収入が300万円以下に収まる場合、雑所得に該当する可能性が高いだろう。
4. ブロックチェーンゲーム
ブロックチェーンゲームではNFTのさまざまな取引が複合的に行われるが、所得区分は個別に判断される。例えばゲーム内でNFTを暗号資産で購入する場合、購入に伴う暗号資産の売却益が「雑所得」として課税されると考えられる。またNFTを偶発的に取得したなら「一時所得」に該当するだろう。
ゲーム内でNFTにかかわる取引が発生した場合、どの所得に該当するか個別に判断してほしい。
5. NFTに関連する暗号資産の売買
NFTに関連する暗号資産の売買益、上述の通り「雑所得」になると考えられる。計算方法は上述したため割愛する。
NFTにおける税金の注意点・問題点
NFTの税金について、注意点や問題点についても紹介したい。
確定申告で利用できなくなる制度がある
NFTで利益が生じた場合、原則として確定申告が必要だ。ただし、確定申告を行うと利用できなくなる制度があることは知っておきたい。
例えば、ふるさと納税の「ワンストップ特例」は、確定申告をしないことが要件の1つになっている 。NFTで得た利益を申告する場合、ワンストップ特例は利用できない。
マイナスを他の所得と損益通算できない可能性がある
NFTは損失が出る可能性もある取引だ。損失が出た場合には、所得区分に応じて他の所得区分の所得から控除できる可能性があり、税金を小さくできる可能性がある。この仕組みを「損益通算」と呼ぶ。
ただし、所得間の損益通算には制限があり、例えば雑所得で生じた損失は他の所得から差し引くことができない。しかし、事業所得や譲渡所得で生じた損失は、他の所得から差し引くことができる可能性がある。
NFTで仮に損失が生じたとしても、当該損失が雑所得とみなされる場合、他の所得と損益通算できないため注意が必要だ。
もともと所得が大きい人ほど税負担が重い
上述の通り、NFTは基本的に総合課税によって税金が計算され、その税率は所得に比例して上昇する(累進課税)。このため、もともと本業などで大きな所得を得ている人は、NFTにおける税率が高くなりやすい。
NFTの売買と「ふるさと納税」は併用できる?
NFTを売買していても、ふるさと納税を併用することはできる。しかし、NFTの損益は事前の予測が困難だ。そのため、ふるさと納税で控除しうる限度額の把握が難しい。限度額を超えてふるさと納税を行った場合、限度額を超えた部分は純粋な寄付となり、控除を受けられないため注意が必要だ。
なお、NFTで利益が生じた場合、基本的に確定申告を行う必要がある。上述の通りふるさと納税の「ワンストップ特例」は確定申告をしないことが要件のため、ワンストップ特例以外の方法でふるさと納税を利用した方が無難だ。
まとめ
以前までNFTの課税関係は整備されていなかった。しかし2022年4月に国税庁がタックスアンサーを公表し、NFTの課税関係が整理された。
もっとも、取引の性質に応じて雑所得や事業所得、譲渡所得などいくつかの所得区分に分かれ、やや複雑だ。判断に迷う場合は税務署や税理士に相談してほしい。
監修
藤村大生
Aerial Partners事業開発部長 公認会計士 / 税理士
監査法人で監査業務や会計・金融アドバイザリー業務に従事した後に株式会社Aerial Partnersに入社。暗号資産交換業者 / Dapps・NFT事業者に対しデータ管理システム提供やアドバイザリー業務を行う他、暗号資産の個人投資家向けの損益計算ツール(Gtax)の提供、確定申告支援サービス(Guardian)の提供を行なっている。Aerial税理士法人代表パートナー。
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参考文献
No.1525-2 NFTやFTを用いた取引を行った場合の課税関係(国税庁)